可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ』

開館15周年特別展『ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ』を鑑賞しての備忘録

パナソニック 汐留ミュージアム
2018年9月29日~12月9日

ジョルジュ・ルオーキリスト教を主題とした作品を紹介する企画。


メイン・ヴィジュアルに採用されているポンピドゥー・センター所蔵の《ヴェロニカ》。青を基調とした画面に、わずかに首を傾げて正面を眼差すヴェロニカの清明な顔が描かれている。その優しさを湛えた瞳は、ゴルゴタの丘へと向かうキリストの汗を拭ったという伝説の女性に対する作家の思慕を感じさせる。
ヴェロニカがキリストの汗を拭った布には、キリストの顔が写ったとされる聖顔布伝説がある。ルオーも聖顔布ないし聖顔を作品にしており、本展でもいくつか作品が紹介されている。

聖顔布は、スタンプや版画に通じ、複製による流通の可能性を開く。映画『フォレスト・ガンプ』のスマイリー・フェイスの件は典型的な聖顔布伝説のパロディを呈示している。現在なら、リツイートにより拡散されるだろう。

今年(2018年)西美で開催されたプラド美術館展では、歴史的な、芸術家の地位向上の試み(手仕事ではなく自由学芸であるとの主張)が冒頭のセクションで紹介されていた。聖顔布を、キリストの描いた自画像と捉えることで、視覚イメージによる布教が神によって許容されたものであるだけでなく(プロテスタントによる、カトリック宗教美術に対する偶像崇拝であるとの批判を回避)、絵画や画家自身の優位性を訴えるのに利用されたという。

果たして聖顔布がキリストの自画像である認識をルオーは共有していたのか。そして、そうであるなら、キリスト教信仰としてだけでなく、ヨーロッパの芸術の正統であるという自負も抱いていたのであろうか。