可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

本 ジェイン・オースティン『自負と偏見』

ジェイン・オースティン(Jane Austen)(小山太一訳)『自負と偏見』(Pride and Prejudice)(新潮文庫)を読了しての備忘録。

高慢と偏見』という邦題でも知られるジェイン・オースティンの『自負と偏見』を、2014年刊行の小山太一訳で初めて読む。

作品の背景となるイギリス社会については何も知らずに頭から読み始めた。最低限必要だと訳者が判断した点については当該箇所に訳注が付してあり、非常に読みやすかった。巻末に付録として「ジェイン・オースティン略年譜」が付され、ナポレオン戦争の頃の作品だと知る。ジェインが21歳のときに『第一印象』というタイトルで書かれ、35歳になってから『自負と偏見』と改題・改稿されたという。

上流階級ではあるものの、その中では下層のジェントリであるベネット家。5人の娘がいるものの男子はおらず、限嗣相続(財産が散逸しないよう男子にのみ相続権を与える制度)の取り決めによって、娘たちに相続権はない。ミセス・ベネットとしては何としても娘たちを裕福な男性と結婚させ、将来の生活を安定させたい。そのベネット家のそばの屋敷に資本家階級に属するミスター・ビングリーが越してくることから物語は始まる。
主人公はベネット家の次女エリザベス。才気煥発で茶目っ気のある女性。美しく極めて気立ての良い姉ジェインがビングリーと惹かれ合っていることが分かり、二人の恋の行方に気を揉む。そして、自身は、社交的で陽気な軍人のウィッカムに惹かれる。ウィッカムから、ビングリーの友人であるミスター・ダーシ―の妨害によって、遺贈による牧師禄を受けられず苦境に陥ったと告げられる。エリザベスは、ビングリーの屋敷で、周囲を見下すミスター・ダーシ―から冷たい言葉を浴びせられたことを思い出す。
エリザベスのミスター・ダーシ―に対する悪印象が『第一印象』という、改題前のタイトルの由来だろう。このエリザベスのミスター・ダーシ―に対する感情がいかに変化していくかが中盤以降のストーリーの柱。
エリザベスに求婚する、いとこのミスター・コリンズの慇懃無礼と言える馬鹿丁寧さとつまらなさ、ミスター・コリンズが盲従するレイディー・キャサリンの傍若無人な態度と冷酷さなど、脇の人物が漫画的とも言える強い個性を付されている。

散歩のシーンが多いのも印象的。眺めるため、語るため、一人になるため、手紙を読むため、と様々に散歩するシーンが登場する。
散歩の舞台ともなる庭。イギリスにおける庭園のつくり方も興味深い。フランス式とは異なる回遊式の庭、隠者の住む洞窟など。