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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『阿部展也 あくなき越境者』

展覧会『阿部展也 あくなき越境者』を鑑賞しての備忘録
埼玉県立近代美術館にて、2018年9月15日~11月4日。

 

美術家・阿部展也(あべ・のぶや。1913-1971)の回顧展。創作活動は全て昭和期。

 

日本におけるシュルレアリスムの紹介者で詩人でもある瀧口修造とともに出版した詩画集『妖精の距離』(1937年)で注目される。雑誌『フォトタイムス』を舞台に前衛的な写真を発表し、太平洋戦争ではその腕を見込まれて陸軍報道部写真班に属しフィリピンに出征。敗戦後帰国すると、画家として活動を再開。インドやヨーロッパなどで開催された展覧会には日本の代表として赴き、現地に長期滞在する。最晩年はローマで過ごし、客死した。

 

捜索活動を5つの時期に分けて時代順に紹介(最終章の前に関係のあった作家の作品を紹介するセクションあり)。華やかな活動を振り返ると、なぜ知名度が低いのかという疑問が浮かぶ。発表当時には斬新でインパクトを与えたのかもしれないが、今日ではその新鮮さや衝撃を同じように感じることができない。欧米の美術に関する情報が極めて限られていた時代に、その紹介者として果たした役割が大きかったのかもしれない。

本展の最初のセクション「第1章 出発 〈妖精の距離〉と前衛写真 1932-1941」で紹介される作品や文章の中に一貫して持ち続けた主題が既に表現されている。卵(卵形)や眼球(球体)への執着がその最たるものだ。幼い頃に見た鰐と卵の写真とに端を発するようだが、瀧口修造の『妖精の距離』の詩にも表されており、シュルレアリスムの洗礼を受けたことが幼児期の記憶を補強した面もありそうだ。
卵形や眼球、そして、コーヒー豆のような、ゼロでもあり、「世界の起源」でもありそうな形が、後年の作品においても繰り返し表現されている。

 

共同で制作も行った写真家・大辻清司は『フォトタイムス』の前衛写真の影響を受けており、阿部展也を終生尊敬していたという。
沢木耕太郎の『深夜特急』で宮脇愛子が語る「先生」とは阿部展也を指すとのこと。