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芸術鑑賞の備忘録

映画『華氏119』

映画『華氏119』を鑑賞しての備忘録

マイケル・ムーア監督・脚本。2018年。アメリカ。

2016年11月9日、ヒラリー・クリントン優勢との事前予測を覆し、ドナルド・トランプアメリカ大統領選挙に勝利した。なぜトランプ大統領が誕生してしまったのか、その原因をそれまでの政治状況に探るとともに、その現実がアメリカの民主主義体制の危機であること訴える。

ミシガン州のフリントにおける水道水汚染問題。ゲートウェイの経営者であったリック・シュナイダーは、ミシガン州の知事に就任すると、住民を顧客とする会社の経営者のように州政を運営。大企業優遇税制を採用し、公共サービスを次々と民営化する。水道水のパイプラインを新たに民間資本でひかせ、水源を巨大な氷河湖から汚染された川に代えてしまう。権力の擒となったシュナイダーは、知事権限を強化するために必要の無い緊急事態を宣言して知事の権限を強化していた。保健担当部局は安全基準の超過を隠蔽し、報道官は繰り返し水道水の安全性を訴えた。知事に汚染問題の報告が上がっていたにも拘わらず、大企業に対してしか対応せず、結果として鉛に汚染された水により死亡者を含む多くの健康被害を発生させてしまう。

シュナイダーはトランプの友人である。トランプも経営者出身の政治家であり、大企業優遇政策を採用し、危機を訴えて権限を強化する手法をシュナイダーから学んでいるのではないかと指摘する。

トランプの大統領選出馬は、テレビ番組の企画を発端としていた。嘘から出た誠である。しかし、これはトランプの常套手段の一つとなっている。あからさまに質の悪い冗談(嘘)を言い放つのは、観測気球として状況を判断するためであり、反応が芳しくなければ撤回する一方、悪くなければ実行に移すのだ。ルールを違反を「公然と」繰り返し、あたかも問題が存在しないかのように振る舞うのも同様の構図だ。


トランプ大統領の手法がまかり通っている原因は、野党・民主党の問題である。クリントンオバマ民主党の歴代大統領が、支持基盤を切り崩すような共和党寄りの政策を展開したことが大きい。のみならず、トランプ大統領を生んだ前回の大統領選挙の民主党候補指名選挙では、サンダース候補の勝利した州の選挙結果を歪曲し、ヒラリー・クリントンを指名してまったのだ。選挙結果が正しく反映されないのなら、誰が民主党に期待するだろう! 総得票数が正しく反映されない大統領選挙における選挙人制度という陋習よりひどい民主党の腐敗。

トランプ大統領アメリカは、ヒトラーのドイツに重ね合わされる。ワイマール憲法体制下、世界で最も民主的な国家であったドイツが、なぜファシズムに陥ったのか。

しかし、トランプ大統領の登場は、アメリカにおける民主主義の危機を察知する機会を提供してくれたとも言える。そして、希望を与えてくれる2つの政治的動向。1つは、役割の大きさにも拘わらず貧困を余儀なくされている教師が団結し、ストライキによって要求を実現していったこと。もう1つは繰り返される銃犯罪に反対して立ち上がったティーネイジャーたち。このような中で、既存の民主党を変革する女性やマイノリティーらの政治参加も活発化している。
但し、マイケル・ムーア監督は、「希望」ではなく「行動」しなければ意味がないと釘を刺す。

11月6日にはトランプ大統領アメリカの今後を決する中間選挙の結果が出る。

 

日本においても、安倍政権の下で、大企業優遇政策が進められる一方、集団的自衛権の容認という解釈改憲が行われた。北朝鮮のミサイル発射実験に対するJアラートなどにより危機を煽る手法も採用された(首相が明治維新の称揚の際、植民地化の危険を強調するのも同根だろう)。内閣人事局の人事権を利用して公務員を公僕(全体の奉仕者)ではなく時の政権の犬へと飼い慣らす。政治家や官僚が公然と嘘をつき、公文書を廃棄する。しかし、野党が機能していれば、政権が倒れていて当然の事態だ。安倍政権は、旧民主党系をはじめとする野党こそが支えている。