展覧会『開館四十周年記念特別展 シルクロード新世紀 ヒトが動き、モノが動く』を鑑賞しての備忘録
古代オリエント博物館にて、2018年9月29日~12月2日。
シルクロードをユーラシアの交易路と広く捉え、先史時代から中世・近代までを通覧する企画。本編は4章から構成。石器などを通じて先史時代を紹介する第1章「シルクロード創成」、貴石の流通により形成された複数の地域通商路がつながる過程を紹介する第2章「シルクロード成長」、東西の古代帝国があらゆる文物を吸収し交易が活発となった時代についての第3章「シルクロード円熟」、シルクロードを通じて伝播する文物の変化を伝える第4章「シルクロード多様化」。これに加え、最後に「シルクロード発掘調査」、「シルクロードと文化財」と題したコーナーが設けられている。
第2章「シルクロード成長」では、中央アジアのネフライト産地から中国への交易路、インドの紅玉髄産地からメソポタミア地域への交易路、アフガニスタンのラピスラズリ(瑠璃)産地からエジプトへの交易路など、貴石をめぐる交易路がそれぞれ発生し、これらの交易路が接続することでシルクロード形成の土台となったことを紹介する(第2章1「ユーラシアの東西の貴石交易網の発達」)。また、西方と比べ後発的な中国の青銅器・鉄器文化が高い加工技術を生み出したこと(第2章2「金属と生産技術の東漸」)、中央アジアでの銜の開発が馬の操縦を可能にし、乗馬技術が発達し、東アジアへ伝播したこと(第2章3「シルクロード以前のウマと馬文化」)も紹介されている。
アフガニスタン北部で出土した《婦人座像》は小さな頭部(石灰岩製)に対し大きな胴体(クロライト製)を有する。その大胆なプロポーションに、胴部に施された「カクナケス」と呼ばれる線刻があわさり、現代的洗練を感じさせる作品。重厚感と聖性を感じさせ「地母神」とも考えられるのも頷ける。
日本の《埴輪馬》が馬を全体としては素朴に表わす一方、馬具がかなり精細に作り込まれていることが指摘されている。
第3章「シルクロード円熟」では、ローマ、ビザンツ、サーサーン朝、漢・唐といった古代帝国があたかもブラックホールのように文物を吸収し、交易が活発化した時代の状況を伝える。古代ギリシア彫刻がインドの仏教n仏像を誕生させたという定番のストーリーからスタート(第3章1「ギリシャ・ローマ美術の東漸」)。シリア地方で産み出された吹き硝子技法がサーサーン朝に普及し、地中海文明を参照しつつカット装飾など多様な装飾技法が産み出されるとともに、地域における好みの形があること(第3章2「ユーラシア・ガラスロード」、一見似ている銀器である舟形杯と多曲長杯とが、よく見ると丸底か高台付きかといった大きな違いを有していること(第3章3「ユーラシア銀器の道」)、西方の白釉陶器と中国の白磁との比較(第3章4「東西陶磁器交流の始まり」)などを通じ、シルクロード伝播の過程での変容を紹介する。
様々な出土品や伝世品の実物によりシルクロードによる交流史の紹介は見応えがあるが、期待していた「シルクロード概念の再構築」や「新しいシルクロード像」の呈示という企画の趣旨は理解できなかった(但し、本編に限る。「シルクロード発掘調査」(パネル展示)は時間がなく未見のため)。