可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『くるみ割り人形と秘密の王国』

映画『くるみ割り人形と秘密の王国』を鑑賞しての備忘録

母マリー譲りの頭脳を持ち機械仕掛けに強い関心を持つクララは、母を亡くして、塞ぎ込みがち。母の死や家族を気にかけない父ベンジャミンに不満を抱えている。クリスマス・イヴに、母からのプレゼントとして、父から手渡された箱の中には、金属製の卵が入っていた。「あなたに必要なものはすべてこの中にある」とのメッセージが添えられているが、複雑な仕掛けの鍵がかかっていて開けることができない。
父と姉ルイーズ、弟フリッツとともに恒例のクリスマス・パーティーに向かうクララは、パーティーの主宰者で発明好きのドロッセルマイヤーに鍵を開けてもらうつもりでいた。
ドロッセルマイヤーの屋敷でクリスマスプレゼントを探すゲームに参加するうち、クララは雪化粧の森に迷い込む。クリスマスツリーに卵の鍵がかかっているのを見つけるが、手にしようとしたところを鼠に攫われてしまう。鼠の後を追ううち、橋のたもとで一人の兵士フィリップに出会う。彼は、クララがマリーの娘だと知ると、王女として遇し始める。この地はマリーを女王とする王国であるというのだ。
フィリップとともに鍵をさらった鼠を追いかけるうち、二人は、マザー・ジンジャーという危険な存在に遭遇してしまう。フィリップに伴われて王城に辿り着いたクララは、花の国・雪の国・お菓子の国の摂政たちに歓待される。彼らによれば、マザー・ジンジャーは遊びの国の摂政だったが、戦争によって荒れ果て、今では「第4の国」と呼び習わされているという。

ディズニー映画のイントロムービーからフクロウが飛び立ち、後を追うカメラがクリスマスの街並みを次々と映し出していく。フクロウがクララの住む屋敷の屋根にある窓にとまるまでノンストップの展開。屋根裏部屋ではクララがフリッツとともに気球の模型に火を点し、気球が浮き上がると、ピタゴラスイッチ的な仕掛けが次々と作動して、鼠を捕らえる。が、そこへメイドが扉を押し開けた拍子に鼠が逃げ出し、姉弟は階下へ降りていく。
この冒頭のシーンが全体を象徴している。登場人物の設定は分かるものの、個々の人物の性格を丁寧に描き出すことはなく、とにかく次から次へと話がスピーディーに展開していく。テーマパークのライドのような映画と言えようか。齟齬を感じさせる暇なく、力技でファンタジー世界を起ち上げ、終幕を迎えさせている。
クララとシュガー・プラム、マザー・ジンジャーについては絶対に、できればドロッセル・マイヤー、ベンジャミンについても、人物をもっと掘り下げるシーンが欲しかった。
ファンタジーの世界を破綻なく描き出すのは難しい。有無を言わさぬ展開というのもファンタジーを成り立たせる手法としてありえるのかもしれない。
クララからの目線で捉えた映像をもっと織り込み、主人公を通じて作品世界を見せる手法もありえたのかもしれない。ただ、子供が作品を鑑賞する場合、ヒロインを中心に捉える客観視点の映像の方がストーリーを追いやすいのだろうか。

クララ役のマッケンジー・フォイは魅力的だった。シュガー・プラムを演じたキーラ・ナイトレイはエキセントリックなキャラクターを演じ切ってファンタジーを起ち上げるのに貢献していた。マザー・ジンジャーの設定はよく分からず、ヘレン・ミレンに演じさせるのがもったいない気がした。

クララが観劇する形で挿入されたバレエのシーンは素敵だった。バレエ以外のシーンでも、振付でもっと遊んでみても面白かったのではないか。