可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 荒木経惟個展『片目』

展覧会『荒木経惟 片目』を鑑賞しての備忘録
ラットホールキャラリーにて2018年9月29日~12月16日。

荒木経惟の近作のモノクロ写真を紹介する企画。
1,000点を超える作品が、縦に8点で整然と並び、ギャラリーの4つの壁面を埋め尽くしている。
女性のヌードや人形、性器を連想させる食べ物や街の中の物体などに加え、新聞の死亡記事や、自らをキャラクターとして用いた人形や漫画などの写真も混ぜ込んである。
個々の写真自体ではなく、写真の上下の写真を支える部分にではあるが、ピンで止められている。それが、虫たちがピン止めされて整然と並んだ昆虫標本を想起させる。
性的イメージがあふれているにもかかわらず、性的な生々しさが表面に出ていないのは、カラーではなくモノクローム=白黒であることから生じる静かな印象と、昆虫標本的展示が産み出す、擬似的な科学の眼(客観的視点)の持つ乾いた印象とからだろう。
女性と人形とは生きているものと生きていないものとを対照させる。
死亡記事は、死をきっかけにして、生きていたときの事績と写真とを伝えるものだ。昆虫標本も死骸を持って昆虫の生を伝える。死を見つめて生を思う。

自らをキャラクターとして用いた人形や漫画の写真には、自らを揶揄する姿が見える。この点も、展示が持つ乾いた印象を増しているだろう。

「片目」というタイトルを墨書した紙が全体の中央に掲げられている。タイトルは、網膜中心動脈閉塞症によって右目の視力を失った5年前から撮影された作品により構成されていることに因んでいる。写真作品群の中では、作者の描く「目」という文字が、片方の性の性器の形象に近づいているように見えた。ミイラとりがミイラとなっているような印象を受けた。