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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 中村ケンゴ個展『モダン・ラヴァーズ』

展覧会 中村ケンゴ個展『モダン・ラヴァーズ』を鑑賞しての備忘録
メグミオギタギャラリーにて、2018年12月4日~22日。

 

中村ケンゴの絵画展。
展覧会のタイトル『モダン・ラヴァーズ』の「モダン」とは、「モダン・アート」のこと。近代絵画のマスターピースから一部を抜き出し、それらを1つの作品として提示したシリーズ。音楽におけるサンプリングによるリミックス作品にも喩えられる。

《収蔵庫》という作品では、仄暗い倉庫のような巨大空間に所狭しと果物を中心とする食材が器に載せられた状態で並んでいる。水差しや瓶に加えてトルソまで描かれていることや《収蔵庫》というタイトルから、静物画を再構成した作品であることが知られる。中央手前のモティーフを中心に人工的な照明が当てられるように描かれており、中央から離れるほど暗く曖昧になって、奥の方はぼんやりとしている。静物画だけでも美術史に残る作品(あるいは美術館に収蔵される作品)が膨大にあり、絵画史の厚みに圧倒されるとともに、把握できない傑作の存在をも予感させる。

《収蔵庫》の暗い背景・横長の画面と対照的なのが、隣に展示されている《お花畑》。縦長の画面に明るく鮮やかな花々がびっしりと描き込まれた三幅対の作品。鮮やかな花々の中でもとりわけゴッホのひまわりの主張が強いのは、目にする機会が多いためか、あるいはゴッホの表現の強度のためか。画面上部に余白を設けていることで絵画としての性格がより強く打ち出されている。

いずれの作品も1つの作品として破綻無くまとめられている。リミックスのセンスの良さが素晴らしい。

他に山を描いた絵画を複数繋いで横長の1つの画面とした《日本アルプス ( 近代山脈 ) 》、1つの画面に複数の雲を構成した《坂の上の雲》が展示されている。

 

会場の一角をカーテンで仕切り、『JAPANS』と題したもう一つの展示を行っている。日の丸や富士といった日本を象徴するモティーフを扱った作品が並ぶ。

《スピーチバルーン・イン・ザ・ヒノマル》と《風に吹かれて》は日の丸
を扱った作品。前者は白地の赤い円の中に、漫画の吹き出しがぎっしりと描かれている。後者は猪熊弦一郎のデザインした三越の包装紙を想起させる、様々な赤い形が白地に並べられた作品で、日の丸の旗が風に吹かれて見せる変化を取り入れたもの。この国のかたちをどうするべきかという、近代社会の産み出した国家=ボーダーをめぐる多事争論の状況を描き出している。

モダンをめぐる問題意識が『モダン・ラヴァーズ』と『JAPANS』とを繋いでいる。