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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『建築×写真 ここのみに在る光』

展覧会『建築×写真 ここのみに在る光』を鑑賞しての備忘録
東京都写真美術館にて、2018年11月10日~2019年1月27日。

建築を写した写真の歴史を辿るとともに、現代の写真家が新たにどのように建築を捉えてきたのかを展観する企画。

 

第1章は「建築写真の歴史~東京都写真美術館コレクションより~」と題し、19世紀中葉から20世紀前半の建築を被写体とした写真29点を紹介する。1827年頃にジョセフ・ニセフォール・ニエプスによって撮影された《グラの窓からの眺め》は作家が自宅の窓から中庭を撮影した写真だった。

左側に鳩小屋が、中央に傾いた納屋の屋根が、右側にパンを焼く小屋があるのがぼんやりわかりますね。実際に見た人の話では、本物はこの複写よりももっと不鮮明で、ほとんど何が写っているかもわからないそうです。撮影には「日の出から日没まで」、つまりおよそ八時間あまりの露光時間が必要でした。(飯沢耕太郎『写真美術館へようこそ』講談社講談社現代新書〕1996年28頁)

建築は動かないため、初期の写真にとって極めて好都合な被写体だった。本展ではジャン=バティスト=ルイ・グロの《ボゴタ寺院の眺め》(1842年)が一番古い作品である。これは、ルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが開発したダゲレオタイプにより撮影されており、隅々まで鮮明に写っている。写真は草創期から絵画と密接な関係があり、ピクチャレスクの表現など、記録と美とがせめぎ合うメディアであった。ウィリアム・ヘンリ・フォックス・タルボット、ウジェーヌ・アジェ、ベレニス・アボット、ウォーカー・エヴァンス、山崎巌などの作品を通じて、記録と表現とのバランスを見るのも一興だろう。

 

第2章は「建築写真の多様性~11人の写真家たち~」と題し、渡辺義雄の伊勢神宮石元泰博桂離宮、村井修の丹下健三作品、二川幸夫の古民家や集落、原直久のイタリア山岳丘上都市、北井一夫のドイツ表現派作品、奈良原一高軍艦島宮本隆司九龍城砦細江英公のガウディ作品、柴田敏雄ベネルクス三国の橋梁他の構造物、瀧本幹也コルビュジエ作品を撮影した作品がそれぞれ紹介されている。

石元泰博瀧本幹也が建築を写真の上でデザインとしてドライに再構築するかのようであるのに対して、柴田敏雄が橋梁などの構造物を女性の脚線美や、不意にのぞいた胸元といった艶めかしい印象で切り取っているのが印象的だった。