展覧会『所蔵作品展 近代工芸の名品―特集展示 棗にまつわるエトセトラ』を鑑賞しての備忘録
東京国立近代美術館工芸館にて、2018年12月21日~2019年2月11日。
所蔵作品展の会場となる展示室全6室のうち半数の3室を使って行われる棗の特集企画。
展示冒頭の6室では、棗が抹茶を入れる木製漆塗の蓋物容器で、その名の由来が植物のナツメの実にあることから説き起こされ、棗の優品とともに棗の構造や制作工程が紹介される。焼き物を紹介する5室を挟み、4室では「東の塗師・渡辺喜三郎」、「塗師と蒔絵師」、「漆における塗りの再評価」、「木地で魅せる棗」と題して、塗師に光を当てて棗の逸品を紹介する。特集を締めくくる3室では棗の装飾技法として蒔絵(金銀粉で絵模様を描く)、蒟醤(漆面に模様を線彫し色漆を埋めて研ぎ出す)、彫漆(層に塗り重ねた漆に模様などを彫刻する)、螺鈿(貝殻を文様に切り貼り付ける)を紹介するとともに、「近現代の創作棗」と題して2018年までに制作された名器を陳列する。2室では陶磁器ガラス器などの、1室では染織品などの名品を紹介する。
音丸耕堂の《彫漆薺文茶入》(1959年。6室)は黒漆による薺のシャープな形を残してクリーム色の漆を彫り込んだ作品。淡いクリーム色との対比で艶のある黒が力強く洗練された印象を与える。耕堂のクリーム色を活かした作品は8室でも見られる(《彫漆色紙箱 カトレヤ》、《彫漆茶入 瑞祥》など)
松田権六の《三保の富士蒔絵棗》(1977年。6室)は蓋面に富士山を、身に三保の松原を描き、手前に三保の松原があり奥に富士山を望む名所のイメージを絶妙に表現している。
松波保真の《利休形小棗》(4室)は切合口(印籠合口。蓋と身を合わせたまま下地を付け、漆を塗り、仕上がり語に切り割って合口を揃える技法)の手本のような作品で、蓋を閉めてしまうとどこが口なのか分からないほどシャープな仕上がり。
松田権六の《鴛鴦蒔絵棗》(1945年、4室)は銀杏の葉のような形をした羽を持つ鴛鴦が蒔絵で表される。黒漆に細かく入れられた線がつくる細波が鴛鴦が音もなく進む様を表現。
増村益城の《乾漆梅花食籠》(1967年。4室)は梅の花を模した作品。深省の竜田川のデザインのように、実寸よりもはるかに大きく再現された梅の花が愛らしさを生む。
黒田辰秋の《白檀塗四稜茶器》(1975年。4室)は螺旋を描く4本の稜線が棗全体を流れるように包む。下地の上に金箔を貼り朱漆を重ねる「白檀塗」によるメタリックな赤と相俟って、モダンでエレガントな印象を受ける。黒田曰く、「最も美しい線は、削り進んでゆく間に一度しか訪れない」。
川北良造の《縞黒檀金線象嵌大棗》(4室)は、象嵌された震える線が見所。
北原千鹿の《金地象嵌月ニ竹文手匣》(1944年。4室)は竹林を表現するために重ねるように描かれる竹に注目。
赤地友哉の《木地糸目旅棗》(1962年。3室)は球状。中心から木目が同心円状に広がり、いくつもの円が共鳴する。