可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『現代日本演劇のダイナミズム』

展覧会『早稲田大学演劇博物館開館90周年記念 2018年度秋季企画展
現代日本演劇のダイナミズム』を鑑賞しての備忘録

早稲田大学演劇博物館にて、2018年9月29日~2019年1月20日

 

1990年代から現在までの日本の演劇を紹介する企画。
劇団や劇作家・演出家を11のジャンルに分類した上で、それぞれのジャンルに色が割り当てて分類の視認性を高めている。具体的には、「弱いい派」(水色)、「2.5次元」(桃色)、「モノローグ×モノローグ」(紫)、「音楽成分多め」(橙色)、「語る力」(赤)、「演出力」(黒)、「静かな演劇」(青)、「コミュニティアート」(黄緑)、「セックス&ジェンダー」(黄)、「ノンフィクション・フィクション」(緑)、「史実」(茶色)である。なおかつ、異なるジャンルの劇団・劇作家・演出家の関係性をテープでつないで示すことも行っている。

つかこうへい、唐十郎野田秀樹松尾スズキらの劇作家が分類されている「語る力」(会話劇)がメイン・ストリームの位置づけだろう。大きな出来事を直接描かず、複数の人々が日常的な音量で会話する「静かな演劇」(岩松了平田オリザら)はバブル崩壊後の社会を映し出してきた。3.11後は、弱者から見える世界を描く「弱いい派」(岩井秀人、山本卓卓)が擡頭したと分析されている。


アニメを舞台化した「2.5次元」などはある程度浸透したジャンルだろうが、それ以外はあまり一般的な分類や用語ではない。企画者の徳永京子も「唯一無二の才能を、名前を付けてカテゴライズすることへの疑問、紐付けされた関係性への異論もあるかと思いますが、これは現代演劇にある角度から光を当てたもので、全体を総括するものではありません。ジャンル名も、本店におけるわかりやすさを考えて特徴的な共通点で括ったもので、各劇団や演劇人はこうしたジャンルを横断して存在していることを前提にしています」とわざわざ断っている。演劇の多様な状況を紹介するための見取り図を提供するための苦肉の策ということだろう。

 

演劇に関心がある人でないと足を運ぶ企画ではない。だが演劇に関心のある人にとっては紹介があっさりしすぎていて、物足りない。ゼロ年代以降、あるいは3.11後など時間的にもっと制限するか、各ジャンルの代表を1つかせいぜい2つの劇団や劇作家に絞り込んで、掘り下げて紹介した方が見応えがあったのではないか。公演の記録映像を紹介するのは良いが、そのまま上映したのでは展示という枠組みにはそぐわない。象徴的なシーンを取り出して見せても良かっただろう。脚本と実際の上演を比較する形で、演出を見せる試みもありえたのではないか。アド・ミュージアム東京が実施している「行動展示」のような企画も、劇団に協力を仰いで試みられると良かっただろう。

演劇の多様な状況を紹介しようという果敢な挑戦が、今回の企画をきっかけに発展していくことを期待したい。