展覧会『第129回展 鈴木理策「知覚の感光板」』を鑑賞しての備忘録
キヤノンギャラリーSにて、2018年11月28日~2019年1月16日。
鈴木理策の写真展。クロード・モネの《睡蓮》やポール・セザンヌの《サント・ヴィクトワール山》など名画が描かれた場所に赴いて撮影された作品20数点を紹介する。
展覧会タイトルに「感光板」という写真用語が入っているが、「知覚の感光板」は画家のポール・セザンヌの言葉だという。セザンヌは「芸術は自然に照応するひとつの調和であり、そこに芸術家個人の表現意図を持ち込むべきではない。自分の中にある先入観を忘れ、ただモチーフを見よ。そうすれば、知覚の感光板にすべての風景が刻印されるだろう」と述べたそうで、鈴木はセザンヌが「芸術家の身体を感覚の記録装置とみなし、受け取ったすべてを画布に定着させようと試み」たと解釈した。そして、「近代の画家たちがモチーフに選んだ土地」を訪れて「カメラの純粋知覚」を通して捉えた「自然に照応するひとつの調和」としての写真を生み出している。
会場外の壁面に(おそらく)サント・ヴィクトワール山の写真2点(組?)が掲示されている。鈴木作品の特徴の1つであるぼかされた前景には樹木の緑が配され、その奥に聳える岩山の険しさがシャープに強調されている。雲一つない青空の下、陽をを受けた明るい灰白色の山肌には、崇高や峻厳とともに明朗を感じる。ギャラリー内にも別の角度から捉えたサント・ヴィクトワール山の写真2点(組?)が並べられているが、こちらは画面に占める山肌の割合が高いことと、より近くから眺めることができるために、山の持つ威圧感をより強く感じられる。
風にそよぐ草を下部にわずかに配し、画面の大部分を青空とそこに流れる雲に当てた作品が2点ある。もとになった作品が何かは不明だが、モネの《散歩、日傘をさす女性》の背景を想起させる作品。会場内の照明が抑えられていることもあり、清浄かつ明朗な画面の輝きに打たれる。
エトルタの海岸などモチーフが特徴的なものだけでなく、もとの作品をイメージできないものも多いが、いずれも魅力的な作品が並ぶ。それにしても、それほど特徴のない木々であっても作品として成立してしまうのは何故だろうか。