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芸術鑑賞の備忘録

映画『迫り来る嵐』

映画『迫り来る嵐』を鑑賞しての備忘録
2017年の中国映画。
監督・脚本はドン・ユエ(董越)。


国有製鋼所付近の河原で若い女性の遺体が発見される。警察から現場の野次馬対応を要請された製鋼所の警備員ユィ・グオウェイ〔余国伟〕(段奕宏)は、死体を目にして好奇心に火が付き、自ら犯人を見つけ出すことにする。ユィは製鋼所内での窃盗犯などの摘発で業績を上げること著しく、保安部所属としては珍しく「模範工員」として表彰され、「探偵」と渾名されるほどであった。ジャン〔饰老张〕(杜源)警部のもとに押しかけて捜査情報を入手し、同じ保安部の同僚でユィを「師匠」と慕うリゥ〔饰小刘〕(郑伟)を相棒に、現場の捜索や犯行の再現、工員からの聞き取り調査や近辺の聞き込みなどを警察さながら実行していく。犯人発見に到らない中、同じ手口で惨殺された遺体が再び付近で発見される。ユィは業務をそっちのけにして製鋼所の入口に事件に関する情報を掲示をしリゥと張り込みをする。そこへ不審な人物が現われ、後を追う。

職務熱心で生真面目なユィに不幸な状況が重なっていき、徐々に常軌を逸していく必然が描かれる。定年を控えた寡黙なジャン警部がユィの行動を懸念し、社会の行く末を悲嘆する姿が作品に静謐さと重厚とを与えている。
ユィの姿は国営工場の姿に重ね合わされている。事件のあった90年代を雨と工場と寂れた地方都市という「灰色の世界」として描写し、プロローグともなる2008年の色彩に溢れた時代と鮮やかに対比している。もっとも、2008年をバラ色の世界として理想視しているわけではなく、90年代の姿を否定的に描いているわけでもない。ユィやジャン警部の「いた」時代、失われた時代への郷愁的な眼差しを画面から感じ取ることができる。

原題に『暴雪将至』とあるように、大寒波が迫る中での出来事として描かれている。そのため雪が重要なモチーフとして劇中に極めて印象的に登場する。大寒波に人々に為す術が無いように、社会の大きな変動に人々は否応なく飲み込まれていく。