可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 増村真実子個展『room』

展覧会『増村真実子個展「room」』を鑑賞しての備忘録
日本橋髙島屋本館6階美術画廊Xにて、2019年1月16日~2月4日。

増村真実子の漆芸作品を紹介する企画。

人物像や野菜など身近なモティーフの与える印象を、シンプルに届けるすっきりとして柔らかな造形と彩色とにより表現した立体作品。漆芸作品だと知らなければFRPなどと見紛うだろう。漆芸という枠組みに縛られず、漆芸から遠ざかることを意図しているようにも見える。
イラストを3Dに起こしたような人物像は、繊細さや健やかさを感じさせる凜とした佇まいだが、思い切りよく単純化した形と塗りとが相俟って、力強さも湛えている。ズッキーニやパンプキンなど静物画的モティーフの作品でも、写実性よりも、それらを認識する核となるイメージを再構成しようとするかのような印象を受ける。
作品は、それぞれ様々な形に削られた木製の台座に、不安定な角度で載せられている。木の台座が乾漆との接点を表しつつ、軽やかさは漆芸からの遊離を目指すかのようである。
台座に用いられている木は、その材が持つ生来の性質を活かしている。サボテンをモティーフにした《saboten》では、木の中に黒い短い線が1つ残っている。その台座に載るサボテンは針を落としてしまったかのように滑らかで、その針が1つだけ台座に残ってしまったかのようだ。
台座を持たない作品《paprika》は、朱漆が鮮やかな大型の箱。あえて壁に掛けて展示する姿勢に、漆芸からの逸脱を感じさせるが、器体と蓋とを分けて展示して空の中身を見せるところは、パプリカというモティーフと相俟って、乾漆のメタファーであろう。
改めて人物像を見ると、その眼は漆で塗られ、前を見据えていることが分かる。