展覧会『冨安由真 Making All Things Equal / The Sleepwalkers』を鑑賞しての備忘録
アートフロントギャラリーにて、2019年1月11日~2月3日。
冨安由真の夢や心霊写真を題材とした絵画及びインスタレーションの展示。
荘子の「胡蝶の夢」をモティーフとしたインスタレーション《Making All Things Equal》は、ギャラリーの展示空間の1つを木材を使って洋館風の部屋に仕立て上げたもの。明かりと読みかけの本が置かれたテーブル、食器が並べられた食卓、閉ざされた窓、壁に設置された眠ることのできないベッド、天井に置かれた座ることのできない椅子、どこかへと繋がる上ることのできない階段などが設えられている。明滅する光や不意に立てられる壁を叩く音が、《ヤコブの梯子》や《砂男》と題された絵画の中へと来場者を誘う仕掛けとなっている。ドアを開けると、通り沿いの硝子張りの空間に出ることができる。そこは、椅子や棚やライトが設置された狭い部屋となっている。作品を鑑賞しているはずの来場者は、知らぬ間に歩行者たちの眼差しに晒されることになる。室内に放たれた揚羽蝶が舞うこの空間は正しく虫籠であって、蝶も来場者も観察対象として変わりが無い。そして、細胞が全て入れ替わっても、「私」が「私」であり続けるように、鑑賞する側に立つか、鑑賞される側に立つかで、「私」は変わらない。
他の展示室では、顔が見えない人物、夢遊病者、あるいは魂が浮遊するかのような球体が描きこまれた肖像画など、夢の中の風景や心霊写真を想起させる絵画が並ぶ。「胡蝶の夢」のインスタレーションを想起させる、水槽に白熱球と蝶のサナギの抜け殻が着いた木の枝を配した作品も置かれている。
なお、夢をモティーフにした展覧会として、『倉本麻弓展』がある(藍画廊にて2019年1月28日~2月2日)。睡眠中に見た夢を小さな箱の中に再現した作品。人が刺されるサスペンスから、部屋一面に広がるふとんのようなユーモラスなものまで、こちらは壺中天よろしく、鑑賞者は小さな世界の中に入り込むことになろう。