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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代』

展覧会『国立西洋美術館開館60周年記念 ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代』を鑑賞しての備忘録
国立西洋美術館にて、2019年2月19日~ 5月19日。

開館60周年を記念して、国立西洋美術館本館を設計したル・コルビュジエ(1887-1965)を、「ピュリスム」運動(1920年代前半)に焦点を当てて紹介する企画。

1917年、スイスからパリに移ったル・コルビュジエ(本名シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ)は絵画に注力した。画家のアメデ・オザンファンと出会い、機械文明に対応した「構築と総合」の芸術を唱えるピュリスムの運動をともに始める。著書『キュビスム以降』では、複雑に画面を構成するピカソやブラックのキュビスムを批判し、純粋に対象物を把握して幾何学的に還元していく手法を主張した。描かれるのは皿や瓶や本やギターなど身の回りの品々で、それぞれを上から見下ろした図と側面からとらえた図とを組み合わせて表すとともに、それらを画面の中に周到に計画して配置していった。


ル・コルビュジエアメデ・オザンファンとともに編集し論説を発表した雑誌『レスプリ・ヌーヴォー』の紹介から始まり、彼らの絵画作品を紹介する「Ⅰ ピュリスムの誕生」、ル・コルビュジエらが「混乱した時代の混乱した芸術」と批判したキュビスムの作品群として、パブロ・ピカソジョルジュ・ブラックフアン・グリス、ジャク・リプシッツ、フェルナン・レジェらの作品を取り上げる「Ⅱ キュビスムとの対峙」、「機械の美学」を唱えたフェルネン・レジェなど、ル・コルビュジエらがキュビスムの業績を認めていく「Ⅲ ピュリスムの頂点と終幕」、絵画や建築だけでなく、シャルロット・ペリアンらと「機会時代にふさわしいデザイン」の家具にも取り組んだ「Ⅳ ピュリスム以降のル・コルビュジエ」の4部で構成。

 

ル・コルビュジエピュリスム期の絵画には、日用品を構築物とみなして、画面上にそれらの平面プランを描いていると知ると、トラフ建築設計事務所がモノ、インテリア、建築の境界を自由に往き来して発想する手法が意外にも伝統的な(正統な?)ものだったことが分かって面白い。

ル・コルビュジエの絵画に見られる一筆描き的な描写と、彼の建築が好むスロープにおける移動する視線とのアナロジーは分かるが、国立西洋美術館本館と展示されるキュビスムの作品との融合を看取するのは難しい。本展は普段通り、地下の企画展示室での開催で良かったのではなかろうか(結果、ふだん展示されている14~18世紀の絵画が撤去されて見られなくなった。「成長していく美術館」というル・コルビュジエの構想はどうなった?)。

ル・コルビュジエの《暖炉》を見て、コルビュジエ1920年代の住宅建築(白い箱)が、1918年作の絵画に既に表れていると、にまにまできるかどうかが本展を楽しむことができるどうかの試金石ではないか。基本的に、かなり通好み(ル・コルビュジエないし西洋絵画のマニア向け)の企画だろう。