可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『霞 はじめて たなびく』

展覧会『ACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 1 霞 はじめてたなびく』を鑑賞しての備忘録
トーキョーアーツアンドスペース本郷にて、2019年2月23日~3月24日。

佐藤雅晴、西村有、吉開菜央の3人展。

1階には、佐藤雅晴のインスタレーション《福島尾行》を展示。福島の日常を撮影した映像作品と、鍵盤とハンマーとが連動していないのか、鍵盤が動きながら、その鍵盤の動く音しか聞こえない自動演奏ピアノによる「伴奏」から成る。
屋根瓦にかけられた青いビニールシート、造成地に置かれた赤いカラーコーン、護岸工事のために運ばれるコンクリート塊など、実写の風景の一部がアニメーションに入れ替わっている。その置き換えられた部分にもともと存在していた物のようにも、作者によって意図的に描き加えられたようにも見える。いずれにせよ、そこにあって不思議はないように思われるモノである。だが、静かに震えるように動くアニメーションは、本当にそこにあって当然なのか、と静かに問いかけているようだ。音のないピアノは、作者の問いかけが響かない社会に対する揶揄だろうか。

中2階の交流室では、佐藤雅晴の映像作品《雪やコーヒー》が見られる。白い角砂糖が、コーヒーカップのホットコーヒーに浸され、黒く変色していく様が左の画面に、一面の雪景色の中を歩く人がつける黒い足跡が雪に埋もれ消えていく様が右の画面に、それぞれ表示されている。白から黒へ、黒から白へ、いずれにしても消えていく存在が、寒暖の対比の中で描かれている。
交流室には、西村有の猫を描いた作品《a cat looking》や、出展作家の過去のパンフレットやお薦めの本なども並べられている。

2階には、吉開菜央の映像作品《Wheel music》と《静坐社》とが展示されている。
《Wheel music》は町を行く自転車の映像を中心に、路地の姿や川岸の人々の様子などを、緩やかな時間感覚で捉えた映像が、複数の画面で表示されている。時に作者のエッセーも挿入される。ディスプレイを挟む形で、西村有の描くフェンスや朽ちたボールやひまわりの絵画が並べられているが、《Wheel music》の映し出す世界に馴染んでいる(同じ作者の作品と思う人もいるかもしれない)。
《静坐社》は、岡田式静坐法の京都静坐社の建物を解体前に撮影したもの。静坐する和服の女性を配することで、人と建物とを対照し、人の時間と建物の時間との差異や、ともに呼吸する姿を描き出す。

3階は西村有の絵画が展示されている。《painting mind》や《stop the bicycle》など複数の時間を1つの画面に描き込んだような作品が並ぶ。そもそもカメラと異なり、視点は常に揺れ動き、網膜に映った像のうち意識にとらえられるものはごく一部に限られている。さらに記憶に定着する像は、カメラの切り取る映像とどれほど変容しているだろう。作者の描く世界は、人間の視覚のリアリティを追求していったものと言えるのではないか。