可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 佐藤雅晴個展『死神先生』

展覧会『佐藤雅晴「死神先生」』を鑑賞しての備忘録
KEN NAKAHASHIにて、2019年2月15日~3月16日。

2018年9月、余命3ヶ月を宣告された佐藤雅晴の絵画展。

余命宣告をした担当医は、これまでぼくを診てくれた医師とは大きくかけ離れたタイプで、診療の時はぼくの顔を見ないままパソコンに向かって話すような先生でした。
結局、7ヶ月の抗癌剤治療のうち、回転椅子を回してこちらの方を向いて目を見て話したのは、抗癌治療が全く効果がないので、緩和ケアに移動してもらうと言われた時でした。
人界を超えたその顔を眺めながら、ぼくは初めから人間として接してもらえていなかったのだと気付きました。
そして、その直後に死神先生というあだ名を思いつき、心がすごく楽になりました。

《ガイコツ》は、水色を背景にピンクのキャップを被った骨格標本を描いた作品。ポップ・アートの明るさがあるが、骸骨はヨーロッパの美術史において「メメント・モリ」を表す図像である。同時に、日本では、怪異や恐怖を妖怪として描いてきた伝統がある。妖怪「死神先生」をとらえ、今を生きる作家の心意気を感じる作品。

病状の進行により外出も困難となった作家は、老朽化のため解体が予定されている自宅でとらえた光景を描いている。

《ヤモリ》は網戸を這うヤモリを描いた作品。細かな編み目を描き込んだ爽やかな緑を背景に、ピンクのイモリ寄りの色遣いのヤモリが印象的。病とともに生きた小茂田青樹の《虫魚画巻》の系譜に連なる。

《浴室》は、小倉遊亀河原温の作品を連想させるタイトルだが、青いタイルの壁面のみをとらえた作品。佐伯祐三ブラッサイが街を歩いていて壁に魅惑されたように、家で浴室の壁を作品にしたって構わないだろう。タイルのつくる格子模様は画面の外へ向かって無限に拡がっていく。

《夜空》は寝室の窓から見た夜空を行く飛行機を、《スイッチ》は壁面の電灯のスイッチを描いた作品。いずれも暗い中で微かに輝く光をとらえた作品。誰もいないところで電話が鳴るシーンを描いた作家のアニメーション作品《Calling》に通じる、つながりへの希求を描いている。Sting(The Police)の"Message in a Bottle"を想起せざるを得ない。

《階段》は日に輝く階段を描いた作品。天国へと続くかのように神々しい。作家には申し訳ないが、この階段を上るのをしばらく後回しにして、作品の制作を継続して頂きたい。