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芸術鑑賞の備忘録

映画『運び屋』

映画『運び屋』を鑑賞しての備忘録
2018年のアメリカ映画。
監督はクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)。
脚本はニック・シェンク(Nick Schenk)。
原案は、The New York Timesに掲載されたサム・ドルニック(Sam Dolnick)による記事("The Sinaloa Cartel's 90-Year-Old Drug Mule")。
原題は"The Mule"。

アール・ストーン(Clint Eastwood)は第二次世界大戦の従軍兵で、イリノイ州ピオリアで長年花卉農園を営んできた。品評会でデイリリーが受賞した経験もある。もっとも家庭を顧みず、娘の結婚式にさえ顔を出さなかったため、元妻メアリー(Dianne Wiest)と娘アイリス(Alison Eastwood)とは絶縁状態になっていた。全米41州を巡り無事故無違反が誇りだが、インターネットによる販路の拡大で経営が行き詰まり、遂に農園は差し押さえられることに。そこへ家族で唯一繋がりのある孫娘ジニー(Taissa Farmiga)から婚約パーティーに呼ばれるが、祝儀を出すことができない。鉢合せたアイリスには踵を返され、メアリーからはなじられる。失意の中会場を後にするアールは、婚約者の友人から声をかけられ、走るだけで金になる誂え向きの仕事があるから孫娘のためにと持ちかけられる。アールが指定されたロードサイドのガレージに向かうと、中では3人のメキシコ系の男たちが銃を携えて待っていた。彼らはアールの年季の入ったトラックの荷台にバッグを載せると、アールに電話を渡し、メールができないなら電話が鳴ったら出ろ、目的地のモーテルに着いたらグローブボックスにキーを置いて離れろ、戻ったらキーと報酬が受け取れると指示を出す。アールが指示通りに目的地に辿り着き、車に戻ると、札束の入った封筒がグローブボックスに入っていた。早速、結婚式の資金を提供してジニーに感謝されたアールは達成感を味わう。トラックを買い換えたアールがVFW(海外従軍復員兵協会)を通りかかると、表に什器が運び出されていた。資金難で閉鎖を余儀なくされたことを知ったアールは、一度だけと考えていた「ただ走るだけ」の仕事を再び引き受けることにする。組織としても高齢の復員兵でクリーンなアールは「運び屋」として当局の目をくらませることができると、彼を「tata」(「父ちゃん」?)と呼び重宝がった。そして、アールが実績を重ねていくと、大量の「商品」の輸送を彼に委ねるのだった。一方、シカゴに赴任したDEA(麻薬取締局)のコリン・ベイツ捜査官(Bradley Cooper)は、トレビノ捜査官(Michael Peña)と組み、アールが関わるカルテルの壊滅を目論んでいた。内通者を使って、大量のドラッグの動きをつかんだベイツは、その摘発にターゲットを絞り込む。

冒頭はアールの花卉農園の最盛期が描かれる。メキシコ系の労働者とスラングだらけの冗談を交わしながら仕事をしている。品評会ではジョークを連発して来場者の笑いをとり、グランプリをさらってバーでは祝いの振る舞い酒。外での評判の良さは、家での不満と表裏一体のものだった。アールには、家族から自分勝手な人物と思われていたが、家庭では何もできないという忸怩たる思いを抱えていたのである。娘の結婚式にさえ出席しなかったのには、それまで何もしなかった自分が今更顔を出すことはできないという思いもあったからだろう。孫娘への援助は、それまでの自分の行動に対するせめてもの罪滅ぼしであった。

女性とはダブルで遊ぶのは、アールなりのメアリーへの愛情表現なのだろうか。

自由奔放に行動するアールに対して、組織の人間が次第に打ち解けていく様が愉快。周囲の白人の客が世界一のポークサンドの条など。

四六時中電話ばかりいじっている若者に対するアールの辛辣な眼差しは監督の社会諷刺だろう。ただし黒人を「ニグロ」と差別語で呼ぶ、高齢者の(?)偏見(固陋)もあわせて描いている。