可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『既存の展示等を改変:RECALLS』

展覧会『「既存の展示等を改変:RECALLS」キュレーティング:X、成相肇、橋本聡』を鑑賞しての備忘録
TALION GALLERYにて、2019年2月23日~3月24日。

既に存在したり、行われたりしたことを、依頼を受けずに、補助線を引くことで新たなものとして呈示する「RECALLプログラム」の一環として行われる展覧会。本展は2つのシリーズから構成される。

1つは、東京の美術館の展覧会タイトルと、オリンピックのスローガンとを並列したポスターを制作して会場壁面に貼り出し、共通する性格を炙り出すシリーズ。例えば、「土と星」(国立新美術館)と「ひとつの世界、ひとつの夢)」(2008年北京オリンピック)、あるいは、「つないでみる」六本木クロッシング2019展(森美術館)と「次世代へ息吹を」(2012年ロンドン五輪)など。
オリンピックのような大衆を動員するイヴェントにおいて、好悪に評価が分断されない大きなオブラートのようなスローガンが好まれるのは、その適否は置いても、理解できる。美術展であっても、多くのアーティストが参加するグループ展の場合、それに類した現象が生じるのだろう。だが、「一つの民族、一人の総統、一つの国家 (ein Volk, ein Führer, ein Reich)」と並べられると、世界的な政治情勢の下、ナチスに学んでいる大臣の君臨する国家においては、笑い飛ばして済ますわけにはいかなくなる。

もう1つは、IKEAの規格化された画一的な製品に個性や主体性を見出すことで、現代的な消費のあり方を諷刺するシリーズである。
フェリックス・ゴンザレス=トレスが2つの時計を並べた《Untitled (Perfect Lovers)》を想起させる、IKEAの時計の広告。そこには、秒針がずれた時計が並ぶ。そこにIKEAの労働者の手業(の痕跡)を見る。あるいは、IKEAの家具は、自ら組み立てる作業が必要である点において、物に対する主体性が回復されているのではないかと指摘する。IKEAの建物に掲げられた文字看板の巨大な「I」に「主体」を認め、IKEAのシステムは大量消費社会において消費者(consumer)が生産消費者(prosumer)へと主体を回復するよすがとなると結ぶ松井勝正の冷笑的な論考も面白い。

本展の白眉は東京五輪についての解説である。2020年の東京を考えると、暗澹たる気持ちにしかならない。変わる術が必要だ。