可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『たちあがる女』

映画『たちあがる女』を鑑賞しての備忘録
2018年のアイスランド・フランス・ウクライナ合作映画。
監督はベネディクト・エルリングソン(Benedikt Erlingsson)。
脚本はベネディクト・エルリングソン(Benedikt Erlingsson)と
オラフル・エギルソン(Ólafur Egill Egilsson)。
原題は"Kona fer í stríð"。英題は"Woman at War"。

合唱団の講師ハットラ(Halldóra Geirharðsdóttir)には環境保護活動家「山女」という裏の顔があった。アルミニウムの精錬所で度々起きている停電はハットラが送電線の破壊工作を行っているためであった。政府は基幹産業を守るため、ヘリコプターやドローン、警察犬を使って犯人検挙に本腰を入れている。それでもハットラは精錬所へと繋がる鉄塔を目指す。今回も弓を組み立て矢を放ち、送電線をショートさせ、精錬所の稼働を停止させることに成功した。現場に急行してきたヘリコプターの追跡を振り切り、何とかズヴェインビヨルン(Jóhann Sigurðarson)の牧羊場まで辿り着く。ズヴェインビヨルンはハットラが送電線の破壊工作の犯人と知り驚くが、地元の家系に連なると分かると、「いとこもどき」としてハットラを牧草の中に匿う。ズヴェインビヨルンはさらにハットラに自動車を貸し、逃亡を援助する。ハットラの合唱団のメンバーである官僚のバルドヴィン(Jörundur Ragnarsson)は協力者であったが、政府が米軍の衛星まで用いた捜査に着手したことを伝え、破壊工作を直ちに中止するよう警告する。ハットラが自宅に戻ると、4年前に申請して忘れていた養子縁組について電話連絡を受ける。ウクライナで孤児となった4歳の女の子ニーカ(Margaryta Hilska)の養親となる意思を確認されたハットラは戸惑うが、早期の回答を求められる。保証人になってもらうためハットラは双子の姉アウサ(Halldóra Geirharðsdóttirの二役)のもとを訪れる。アウサは喜んでくれるが、ヨガ講師の彼女はインドの僧院へ2年間修行に出るという。ニーカを引き取った自分に何かあった場合、アウサに頼れないことを悟ったハットラは、精錬所への攻撃を完成させるため、犯行声明を出すとともに、鉄塔自体を倒壊させることにするのだった。

キャプテン・マーベルに匹敵するハットラ(地面に突っ伏して大地の力を吸収する)、『バードマン』的に登場するミュージシャンとその音楽、アイスランドの美しい自然(とりわけ苔が印象的)の3つが織りなす不思議な魅力に満ちた作品だ。

いきなり矢を放って送電線をショートさせるシーンから始まる。アイスランドの美しい山野を駆けながらヘリコプターの追跡を必死に躱す緊張感のあるシーンが続く。続くのだが、主人公の脇では、雄大な自然を背景に、鍵盤楽器奏者(Davíð Þór Jónsson。本作の音楽担当でもある)、打楽器奏者(Magnús Trygvason Eliasen)、管楽器奏者(Ómar Guðjónsson)の3人から成るバンドが少々とぼけた感じの音楽を演奏している。何だか微笑ましい。バンドは要所要所で場所を選ばず現われ、ときにハットラの行動を促す役割も担っている(リツイートもする)。ウクライナの民族衣装(?)を着た3人の女性(Susanna Kurpenko、Galyna Goncharenko、Iryna Danyleiko)によるコーラスも、バンドとともに挿入され、独特の歌唱で聞かせる。また、スペイン語のサイクリスト(Antoine Huré)が「怪しい外国人」としてハットラの代わりに度々容疑者として逮捕され、コメディ要素を加えている。