可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『サンセット』

映画『サンセット』を鑑賞しての備忘録
2018年のハンガリー・フランス合作映画。
監督はネメシュ・ラースロー(Nemes Jeles László)
脚本はクララ・ロワイエ(Clara Royer)、マシュー・タポニエ(Matthieu Taponier)、ネメシュ・ラースロー
原題は"Napszallta"。

1913年夏。オーストリア・ハンガリー帝国の第二の首都ブダペスト。創業30年を迎える高級帽子店「ライター」に若い女性客(Jakab Juli)が訪れる。古いデザインの帽子ばかりいくつか試着すると、彼女は仕事を求めて来店したと告げる。主任のゼルマ(Dobos Evelin)が引き取ると、彼女はトリエステの帽子店で働いていたが、ライターの募集を知って、退職して応募したという。名前を聞いたゼルマは慌ててオーナーのブリル・オスカル(Vlad Ivanov)に連絡する。彼女は先代のオーナーで創業者であるライター夫妻の娘イリスであった。ブリルは母親と瓜二つのイリスに驚きつつ、トリエステへ戻り復職するよう勧める。その晩、ライターに宿泊したイリスは部屋に侵入してきたシャンドル(Marcin Czarnik)に襲われ、兄の存在を知らされる。翌日、ブリルに弟について尋ねるもあしらわれ、汽船のチケットを渡されてトリエステへ戻るよう促される。イリスは汽船に乗らずに孤児院へと足を向ける。2歳で両親を失ったイリスは12歳まで孤児院で暮らし、その後トリエステへ向かったのだった。孤児院でめぼしい情報が得られなかったイリスは、ライター30周年のイヴェント会場でブリルを見つける。ブリルはイリスの兄カルマンは伯爵を殺して行方をくらましたこと、カルマンによって着せられた汚名を払拭するのに苦労したことを告げると、今も喪服でいる伯爵夫人(Julia Jakubowska)の姿に目を向けさせるのだった。イリスは兄を探そうと、ライターのそばに設置された仮設テントの舞踏会場を訪れる。そこで、シャンドルの姿を見かけ、その後を追うのだった。

イリスはブリルやゼルマの話に聞く耳を持たず、危険も顧みずにブダペストを兄の姿を求めて嗅ぎ回る。「暴走」という表現がふさわしい。イリスの肩越しにとらえた映像が多用されることで、事情がよく分からないまま兄の謎を追うイリスの心境を味わわせる趣向になっている。その上、発話主体の姿をあえて映さず声だけが聞こえてくる箇所が複数ある。それらが、あたかもアドベンチャー・ゲームのような効果を生んでいる。

兄を追ううちに、ライター帽子店が栄えている裏の事情が明らかにされていく。そのことが作品に妖しさを添えている。

エンディングがなぜあのようなシーンなのか。その謎が余韻を残す。

ハンガリー語、ドイツ語、フランス語以外にどれくらい言語が登場したのだろうか。