展覧会『ピエール セルネ & 春画』を鑑賞しての備忘録
シャネル・ネクサス・ホールにて、2019年3月13日~4月7日(前期は27日まで。後期は29日から)。
写真家ピエール・セルネの《Synonyms》シリーズと、春画とを合わせて展示する企画。
ピエール・セルネの《Synonyms》シリーズは、抽象的な形が白と黒とでシャープに表された画面。サイズは区々だが、縦横がそれぞれ1メートルを超えるものもある。一見して何が被写体になっているのかは全く分からない。タイトルに示された人物のヌードやセックスをスクリーン越しに撮影したものだという。作者はロールシャッハ・テストを引き合いに、「何が認識されるかは、それを見る人の心のあり様に左右され」ると述べている。女性の胸の形など比較的認識しやすい形もあれば、全く体の形に結びつかないものまで様々だ。「Synonyms」には、「さまざまな文化的背景を持つ人たちの肉体を二次元のはかないイメージに還元することで、鑑賞者には物理的な表象を超えて自分自身のイメージとの類似点を発見してもらいたい」という意味が込められているという。
合わせて展示される春画は、鈴木春信、喜多川歌麿、鳥居清長、鳥文斎栄之、葛飾北斎による浮世絵版画と肉筆浮世絵。
鳥居清長の《袖の巻》はやたらと横に長い画面になっている。男女の姿態はその横長の画面にトリミングされて、結合部と顔(表情)とが強調される。鳥文斎栄之の《源氏物語春画巻》は江戸時代の多様な女性との情事を華やかな画面の中に描き出している。糊を塗って雲母粉をふりかけた(?)愛液の表現が光る。
肉体を黒い影で覆うことと性器を露骨に描き出すこと、大きな画面と小さな画面、モデルの顕名と匿名といった対照的な作品が、セックスでつながる。陰と陽との結合だ。ココ・シャネルもまた、喪服の色として忌避された黒をファッションに取り入れ、陰と陽とを結合させたのであった。