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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『吉田謙吉と12坪の家 劇的空間の秘密』

展覧会『吉田謙吉と12坪の家 劇的空間の秘密』を鑑賞しての備忘録
LIXILギャラリーにて、2019年3月7日~5月25日。

舞台美術家・吉田謙吉が自ら設計して建てた、ステージと観客席を持つ12坪(約40平米)の自宅を中心に、彼の業績を紹介する企画。

赤い壁が愛らしい「12坪の家」の20分の1スケール模型が冒頭で紹介される。それに向かい合う形でステージ=アトリエで使用していた仕事机と舞台幕とを合わせて展示している。確かに、仕事場とは、ステージである。

関東大震災(1923年)の被災者が建てたバラックをスケッチした吉田は、バラックの装飾を請け負う「バラック装飾社」を画家・建築家らとともに立ち上げた。店舗の壁面装飾が写真で紹介されているが、淺井裕介を髣髴とさせるデザインも見られる。この活動をともに行った今和次郎は、フィールドワークにより同時代を考察する「考現学」を提唱。謙吉もスケッチを行ったり調査データを図表化してまとめたりしている。吉田は相当なメモ魔を自認していたらしいが、この活動が影響していたのだろう。

吉田は、1924年築地小劇場の第1回公演『海戦』の舞台美術を担当し、舞台美術家として歩み出す。「丸太組み構成舞台」を生み出し、布の張り替えによる素早い場面転換と経費節減との一挙両得を目論んだ(もっとも、丸太組みには人足を要して経費節減にはうまくつながらなかったらしいが)。謙吉の手掛けたその他の舞台模型やデザイン画が合わせて紹介されている。また、鉄板やレールを用いて機関車のイメージを再現した銀座のバー「機関車」の内装(1934年)など、舞台美術の経験を店舗装飾にも活かした。店舗装飾のデザイン画やマッチラベルがいくつか展示されている。

吉田は女性誌などに寄稿した記事で、和室をいかに可愛い洋室を実現するかなど、限られた環境の中で理想の部屋を実現するための提案をしている。

震災復興、劇場の舞台美術、店舗の内装だけでなく、およそ何かを実現しようとするとき、空間や予算が無制約であることなどあり得ない。制約を夢を諦める言い訳にせず、前提条件とすることで、夢を実現していった吉田の姿が立ち上がる。小規模ながら夢に溢れた展観である。