展覧会『米田知子「アルべール・カミュとの対話」』を鑑賞しての備忘録
シュウゴアーツにて、2019年4月13日~5月2日。
米田知子が、アルベール・カミュの縁の地を訪ねて撮影した写真と映像とを紹介する企画。
会場は2室から成り、手前の部屋では、6分強の映像作品《Dialogue with…》が上映されている。カミュの生きたアルジェリアとフランスとの地をめぐる映像だが、ナレーションや字幕はない。アラビア語版の『異邦人』の朗読を挟み、最後にフランス語版の"L'Étranger"が映し出されることから、『異邦人』の主題を織り込んだ作品と考えられる。
奥の部屋では、判型の大きなカラー写真数点と、それらに比べるとサイズの小さい2枚組のモノクロームの写真数点とが展示されている。
アルジェの植物園や、古代ローマの遺跡のあるティパサなどの写真は、フランス領アルジェリアに生まれ育ったカミュの足跡をたどるもの。
草原の中を真っ直ぐに延びる舗装されていない道。その道を挟むように、緑の繁る木と、茶色くなった葉に覆われた木とが立つ。境界をまたいで、異なる樹木が手を携えるようにも見えなくもない。凡庸とも評しうるようなこの光景は、第一次世界大戦の主戦場の1つマルヌの、塹壕が掘られた場所だという。カミュの父リュシアンは第一次世界大戦に従軍し、マルヌで戦死した。カミュが生まれた1年後のことだった。
図書館の机で本に向かう生徒たち。モノクロームのように灰色に覆われた画面の中、窓辺で翻るオレンジ色のカーテンが強い印象を残す。アルジェリア独立戦争の際、この図書館の多くの蔵書が燃やされたという。作者は、カーテンに炎の残像を見ただろうか。
青空に輝く太陽の写真。太陽は、明らかに『異邦人』を想起させる。
検事が腰をおろすと、かなり長い沈黙がつづいた。私は暑さと驚きとにぼんやりしていた。裁判長が少し咳をした。ごく低い声で、何かいい足すことはないか、と私に尋ねた。私は立ち上がった。私は話したいと思っていたので、多少出まかせに、あらかじめアラビア人を殺そうと意図していたわけではない、といった。裁判長は、それは一つの主張だ、と答え、これまで、被告側の防御方法がうまくつかめないでいるから、弁護士の陳述を聞く前に、あなたの加害行為を呼びおこした動機をはっきりしてもらえれば幸いだ、といった。私は、早口でにすこし言葉をもつれさせながら、そして、自分の滑稽さを承知しつつ、それは太陽のせいだ、といった。(アルベール・カミュ〔窪田啓作訳〕『異邦人』(新潮文庫)より)