可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 ヴィンセント・ライタス個展『呼吸する内/外』

展覧会『ヴィンセント・ライタス個展「呼吸する内/外」』を鑑賞しての備忘録
駒込倉庫にて、2019年4月20日~5月12日。

"Intimacy as Aesthetics"をテーマに活動するオランダ出身の美術家ヴィンセント・ライタスの個展。計10点の作品が展示されるとともに、空間全体が、建物の空気の流れを取り入れた、インスタレーションともなっている。

表題作《Breathing IN/EX-terior》について
薄い布が左右にカーテンのようにかかっている。通路に向かって緩やかな円弧を描くように配され、途中の部分がくびれるように設置されている。左右のカーテンの裏、壁面にはそれぞれ3つの電球が配され、明滅する。また、左右のスピーカーからは、それぞれ男性と女性の息づかいが聞こえてくる。カーテンは、電球とも相俟って、部屋やベッドといった室内空間をイメージさせる。さらに男女の息づかいによって、シーツあるいは肌着を想起させるかもしれない。時折風が送り込まれることで、カーテンは通路を塞ぐように脹らむ。脹らむのだが、どんなに脹らんでも、あとほんの少しのところで、両側の布が触れ合うことはない。それはエロティックな雰囲気を生んでいる。だが、それと同時に、密やかな時間を共有する関係性にあっても、両者の間にある確かな境界の存在を明らかにする。息あるいは空気の交換が交感を生み、境界を越える。息による越境ということなら、降霊術(spiritualism, Sprotialismus)、すなわち此岸と彼岸とのやり取りでもあろう。なお、本作品のカーテンの立面図は、《Wind Memoir》と題された風の楽譜に表れた形とも共鳴している。