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芸術鑑賞の備忘録

映画『ある少年の告白』

映画『ある少年の告白』を鑑賞しての備忘録
2018年のアメリカ映画。
監督・脚本は、ジョエル・エドガートン(Joel Edgerton)。
原作は、ガラルド・コンリー(Garrard Conley)の"Boy Erased: A Memoir of Identity, Faith, and Family"。
原題は、"Boy Erased"。

大学生のジャレッド・イーモンズ(Lucas Hedges)は、母ナンシー(Nicole Kidman)に伴われてテネシー州にある「愛の導き」を名乗る施設を訪れる。そこでは同性愛者を「矯正」するセラピーが行われている。プログラム参加に際しては私物の持ち込みは一切禁止され、預けた私物についてはチーフ・セラピストのヴィクター・サイクス(Joel Edgerton)によるチェックが行われていた。また、プログラムの内容は外部に洩らしてはならないものとされるなど、厳格なルールが定められていた。ジャレッドは母とともに近くのホテルに滞在しながら、通所することになった。
ジャレッドは高校時代にバスケット・ボールに打ち込み、チアリーダーのクロエ(Madelyn Cline)と交際していた。だがジャレッドは男性に対する指向から彼女と一線を越えることができず、大学進学を機に別れていた。入寮する際に知り合った魅力的なヘンリー(Joe Alwyn)とはジョギング仲間となり親しくなったが、ジャレッドのルームメイトが不在の晩、泊っていたヘンリーによってジャレッドは襲われてしまう。のみならずヘンリーは、ジャレッド以外にも同様のことをした過去を告白する。ヘンリーに好意をを持っていただけにショックを受けたジャレッドは急遽実家に戻ることにした。ところが、ジャレッドによって自らの罪が露見するのではないかと勘繰ったヘンリーが、ジャレッドの実家に大学関係者を装って電話をかけてきた。ジャレッドが同性愛者であるとの通報は、アーカンソー州で自動車販売店を経営するとともに教会で説教を行ってもいた父マーシャル(Russell Crowe)にとって青天の霹靂であった。即座に長老や同性愛者の息子がいる牧師と相談し、息子を更正施設
へ入所させることを決めたのだった。
矯正プログラムの開始に当たって、サイクスは、参加者に語りかける。私はセラピスト生まれついたのではない、自ら選びとったのだと。フットボール選手であるキャメロン(Britton Sear)を引き合いに、フットボールを辞めればフットボール選手でなくなるように、同性愛者であることは自らの意思で辞められるのだと諭す。そして、最初の課題として、家系図を書き出して、家族一人一人の持っている「罪」を記入させ、自らが同性愛者となった悪影響を参加者に意識させようとするのだった。

マイノリティであることによる社会的な差別はもとより、宗教的な禁忌の存在は、同性愛者にとって痛切な問題だ。アメリカで「同性愛」の「矯正」が未だに行われている背景には、教義との関係があるのだろう。この映画の扱うテーマは一見すると身近なものではない。だが、「健康と病気」などに設定を置き換えてみれば、容易に一般化できるだろう。男女間でなければ子を成せないといった論理同様、健康に不自由なく生活するべきだといった容易に否定しがたい価値を持ちだせば、不安が刺激され、一定の行動を動機づけられてしまうことは十分にあり得る。そして、宗教や信仰に左右されなくとも、科学(医学)の要請ということであれば、簡単に靡いてしまうことになるだろう。

作品の最後に記述される事実が興味深いので、ぜひ読んでいただきたい。