可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『世紀末ウィーンのグラフィック デザインそして生活の刷新にむけて』

展覧会『京都国立近代美術館所蔵 世紀末ウィーンのグラフィック デザインそして生活の刷新にむけて』を鑑賞しての備忘録
目黒区美術館にて、2019年4月13日~6月9日。

京都国立近代美術館が所蔵する、19世紀末から20世紀初頭のウィーンで生み出された版画・挿絵本など約300件を4つのセクションで紹介する企画。

 

「Ⅰ.ウィーン分離派クリムト
1897年に結成されたウィーン分離派は、「時代にはその芸術を、芸術にはその自由を」をスローガンに、芸術・デザインの刷新を目指した。1階エントランスホールの一角を利用して、ウィーン分離派の展覧会カタログと機関誌『VER SACRUM』を展示する。また、2階展示室Cでは、ウィーン分離派の中心人物であったグスタフ・クリムトの習作や画集などを紹介。

グスタフ・クリムトウィーン大学大広間天井画のための習作では、手の形(指を開いたり伸ばしたりなど)の様々な試みが見られる。手のポーズが印象を大きく変える。マキシミリアン・クルツヴァイルの《自画像》やエゴン・シーレの《アルトゥール・レスラーの肖像》に描かれた手は、顔と同等の地位を占めるほど印象が強い。

カール・モルの《雪に埋もれたデプリンクの別荘》は雪と建物や塀・柵が自然と人工、白と黒といったコントラストが明快。雪の積もった地面を手前に大きく配し、後景の建物を樹木の太い幹がうねるように立ちはだかる点などに、浮世絵の影響を感じる。

 

「Ⅱ.新しいデザインの探求」
生産工程の変化に対応したデザインの需要から多くの図案集が刊行された。『DIE QUELLE』シリーズなどの図案集を展示するとともに、優れたデザイナーを輩出したウィーン工芸学校や彼らの活動の場となったウィーン工房を紹介する(2階展示室B)。

『DIE QUELLE』第5巻は"FORMENWELT AUS DEM NATURREICHE"と題して、カール・ブロスフェルトを髣髴とさせる植物の写真や、盆栽、昆虫、プランクトンなどの写真が掲載されている。

『DIE QUELLE』第2巻のためのデザイン案の《女の頭部のある花》、『GERLACH's ALLEGORIEN』の蝶やトンボの羽の生えた人物、植物と人の連なりなど、デザインの中で自然と人間との境界を無効にする、あるいは地続きであることを表現した作品が印象に残る。科学の発展は、一方で人間と生物の間の垣根を取り払い、他方で機械が人間にとってかわっていく。近代科学と近代産業の人間観がそのまま芸術にも反映されてい
ることを象徴しているようだ。

ヨーゼフ・ホフマンの《ダイナミックな装飾》には運動そのもののデザイン化の企てが、カミラ・ビルケの《百合の飾り》には百合という種や個体から模様(形態)のみを抽出する試みが見られる。

 

「Ⅲ.版画復興とグラフィックの刷新」
19世紀の写真の発明は、版画から、絵画の複製や出来事の記録といった役割を奪った。浮世絵版画の流行は、芸術としての版画を復興するきっかけとなった。木版画や版画の新しい表現を紹介する(2階展示室A)。

愛らしい骸骨が並ぶ《屋根裏の幽霊》(レオポルト・ブラウエンシュタイナー)、山嶺のような女性像の《ケープをまとう女》(ミレーヴァ・ロラー)、手を前に差し出した女性の姿が特徴的な《跪く赤いローブの女性》(フリードリヒ・ケーニヒ)、川島秀明の旧作を思い出さなくもない伸びた髪の毛で象られた《天使》(エーリヒ・マッリーナ)など興味深い作品が並ぶが、とりわけオージー的な場面を明るくかつシニカルに描くフランツ・フォン・バイロスの《ボンボニエール》が秀逸。

 

「Ⅳ.新しい生活へ」
ポスターやカレンダー、書籍、蔵書票など、新たなデザインが日常生活に浸透した様子を紹介する。

アントン・ノーヴァクの《風景》は、岩山のようなありうべき光景が描かれているが、映画『メッセージ』が映像化した宇宙船のような、この世ならぬ印象を受ける。

ユリウス・クリンガーが挿絵を描いた『ソドム:ある遊戯』はクンにリングを描いている。