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芸術鑑賞の備忘録

映画『ベン・イズ・バック』

映画『ベン・イズ・バック』を鑑賞しての備忘録
監督・脚本はピーター・ヘッジズ(Peter Hedges)。
2018年のアメリカ映画。
原題は"Ben Is Back"。

クリスマス・イヴの教会では、ページェントのリハーサルが行われている。聖歌隊アイヴィー(Kathryn Newton)が歌うのを離れた席から母のホリー(Julia Roberts)が指示を送りながら見守っている。まだ幼い天使役のレイシー(Mia Fowler)と羊役のリアム(Jakari Fraser)は母親を見つけると、待機場所から抜け出して母親のもとへとやって来てしまう。リハーサルを終えた一家は、プレゼントの話題で盛り上がりながら車で帰宅する。ホリーは家の前にベン(Lucas Hedges)が佇んでいるのを見つけると、大喜びで車を飛び出し、息子を抱きしめる。レイシーとリアムも兄の帰宅を喜んでいる。だが、アイヴィーだけは浮かない顔で電話を取りだし、父親のニール(Courtney B. Vance)に連絡を入れる。ベンは数ヶ月前に薬物依存症の厚生施設に入所しており、帰宅は予定されていなかった。慌てて帰宅したニールがベンを咎めると、ベンは施設へ帰るので送って欲しいとホリーに頼む。ホリーが車を出すと、ニールが進路を遮る。これまでの経緯からすれば厳しい処置は当然なものの、ベンがホリーと前夫との子であることもあって、ニールに迷いが生じたのだ。改めてホリーはニールと話し合い、薬物検査の結果が陰性なら、自分の視界から離れないことを条件に、ベンを1日滞在させることにする。検査をクリアしたベンは、プレゼントの用意をしている最中に、自分もレイシーやリアムにプレゼントを買ってやりたいと懇願する。ベンはホリーとともにモールへ向かい、クリスマスのプレゼントを用意するが、その間、昔の仲間たちによって、姿を見かけられていた。ベンは薬物依存症の支援グループのミーティングに急遽参加することにする。薬物を絶って77日間という自己最長期間を更新中であることや自らの体験について語ると、終了後に女性(Alexandra Park)に声をかけられる。以前ベンから薬を提供されていたという彼女は、自分が施設に入る前に最後に一緒に使わないかと誘ってくる。再びモールに戻り、セーターを試着する際、ベンはフィッティング・ルームを利用して薬を吸引しようとしたところをホリーに阻止される。ベンはミーティングで話した女性からもらったと伝えるが、実は自宅の屋根裏にしまってあったものをクリスマスツリーの飾り付けを探し出すことを口実に取り出していたのだった。ホリーはベンから薬を取り上げて家に帰り、家族とともに教会へ行く準備をする。教会では、ベンが薬を提供したために亡くなったマギーの母親(Rachel Bay Jones)が列席していて、ホリーは彼女に哀悼の意を表する。一家がクリスマス礼拝から帰宅すると、窓硝子が割られ、クリスマスツリーが倒され、飼い犬のポンスがいなくなっていた。ベンは昔の仲間の仕業であるとすぐに悟り、家を飛び出す。ベンを追ったホーリーは、彼を見つけ、彼のポンス奪還につき合うことにするのだった。

 

薬物依存から脱することが極めて困難であることが複数の角度から描かれる。そして、幸せな家庭の温かいクリスマスの場面から薬物シンジケートとのやり取りへとつなげて描くことで、薬物の問題が余所の特殊な問題ではなく、ありふれた日常と地続きの問題であることを強く訴えている。医師が処方した「オピオイド鎮痛剤」の依存症問題について、ホリーが医師や薬剤師を痛烈に批判する場面は象徴的だ。

薬物依存の恐ろしさと拮抗させるかのような鬼気迫るものがあるJulia Robertsの姿が強い印象を残す。その母親を動かす、薬を前に揺れる心境を表現する息子Lucas Hedgesの演技も良い。連れ子同士の家族の設定とし家族間の複雑な距離感を描き出したPeter Hedges(Lucas Hedgesの父)の脚本も冴える。