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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション』

展覧会『印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション』を鑑賞しての備忘録
Bunkamura ザ・ミュージアムにて、2019年4月27日~6月30日。

19世紀後半のフランス絵画を中心とした展覧会。地元出身の実業家ウィリアム・バレルから寄贈されたグラスゴー市バレル・コレクションからの73点に、同市のケルヴィングローヴ美術博物館所蔵作品7点を加えた80点を「第1章 身の回りの情景」「第2章 戸外に目を向けて」「第3章 川から港、そして外洋へ」の3章で紹介。

 

冒頭には、フィンセント・ファン・ゴッホの《アレクサンダー・リードの肖像》が掲げられている。リードはバレルのコレクション形成に関与した画商。連なる短い線がうねるようにびっしり配された画法はいかにもゴッホという印象。

 

第1章では、暗い室内の朱色のソファに身を沈めた白いドレスの少女が孔雀の羽を手にする《孔雀の羽を持つ少女》(ヤーコプ・マリス)、寄り添う人物の向きと視線の組み合わせが印象的な《三人の男と一人の女性》(オノレ・ドーミエ)、マネらしい(《笛を吹く少年》のような)曖昧なグレーの空間に、黄色いバラと緑の葉とが輝くように描かれた
シャンパングラスのバラ》などが印象に残る。とりわけ、銀の皿の左端に載せられた割られた栗と、その皿の右側に寄り添う切られた洋梨とを描いた《静物 洋ナシと皿》(ルイ=ギュスターヴ・リカール)の構成が異彩を放つ。

 

第2章には、本展のハイライトであるエドガー・ドガの《リハーサル》が展示されている。この作品の画面中央奥に「アラベスク」の動作をしている二人のダンサーが描かれ、その手の伸びた先(画面右手)に赤い服が印象的なコレオグラファーのジュール・ペローがいる。手前の衣装係の赤い服が、ダンサーの白いチュチュに隠されて、ペローと衣装係の赤い服のラインが縦の軸で視線を誘導する。そこには足を横に開いて座るダンサーがおり、つま先が床のラインと平行に揃えられている。今度はこの水平の線によって画面左手へと誘われ、左手前隅の螺旋階段によって再びアラベスクのダンサーへと回帰していく。循環・輪廻だけでなく、静と動、空間の粗密、平行と垂直、補色(赤と緑)といった数々の対照が詰まった作品。
ドガの《リハーサル》以外では、《鶏のいる村の道(バルビゾン?)》(アドルフ・エルヴィエ)と《雪》(アンリ・ル・シダネル)が興味深い。前者は、建物に挟まれ奥へと続く道が中央に描かれ、道の手前に鶏が数羽いる。人物は道の脇の建物に張り付くように描かれる。明るくない青空、わずかに歪んだような白い建物、人気なく先を見通せない道が不穏な空気さえ漂わせる不思議な作品。後者は、井戸のある町の広場の雪景。井戸や建物や広場を覆っていく降り止まない雪は、雪明かりを感じさせる桃色の光を含む。1つの窓だけが燃えるようなオレンジ色に輝く、これまた不思議な作品。

 

第3章では、ギュスターヴ・クールベの《マドモワゼル・オーブ・ドゥ・ラ・オルド》、ヤーコプ・マリスの《ドルドレヒトの思い出》、シダネルの《月明かりの入江》がやや目を引いた。