可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『時間/彫刻 時をかけるかたち』

展覧会『時間/彫刻 時をかけるかたち』を鑑賞しての備忘録
東京藝術大学大学美術館陳列館にて、2019年5月20日~6月2日。

 

東京藝術大学美術学部彫刻科の主宰する、10名の作家の参加する彫刻展。キュレーションは出品作家の1人でもある林 武史。

北山翔一の《エプロンの隙間》は、樟に背から足にかけての女性裸体が彫り込まれているもの。素材となった楠から切り出されることなく、包み込まれるように立っている。誇張されて表現されているわけではないのに、臀部の盛り上がりにやたらと目が吸い寄せられる。垂直・女性像の《エプロンの隙間》と対になるのが、水平・男性像の《乱視(おぼれる男)》。仰向けで宙に浮いた足を少々ばたつかせている男性の裸体下半身。上半身は直方体に近い形で楠材が残されている。2つを組み合わせると、エウリュディケ(=女性の背面=現世から去る)を求めて冥界に下った(垂直)オルフェウス(=姿を見ることができない)の足掻き
と後日譚(八つ裂き)を連想してしまう。

冨井大裕の《今日の彫刻》は街の中に現われたモノの集積を立体作品として紹介するスライドショー。意図的に組み上げられたのか、偶然積み上げられたのか分からないモノたちが、等しく「彫刻」として次々と呈示されていく。プラットフォームに現われる真偽不明、玉石混淆の情報のアナロジーとして、情報そのものの彫刻としてデザインしたものとも受け取れる。既製品のブックエンドを組み合わせた作品や、パフォーマンスの記録写真と合わせ、彫刻概念の拡張への探究となっている。

大巻伸嗣の《トキノカゲ》は、四方に貼られた黒い紗に下方から扇風機で風を送ることで浮かび上がらせ、様々な形を作り出す作品。空気を用いて浮かばせたモノが環境の中で姿を変えていく様を見せるという意味でも、有無を言わさず視線を惹きつける魅力を備えている点でも、シャボン玉の作品と共通する。