展覧会『トム・サックス「ティーセレモニー」』を鑑賞しての備忘録
東京オペラシティ アートギャラリーにて、2019年4月20日~6月23日。
茶の湯と宇宙とをテーマにしたトム・サックスの個展。アメリカ国内で開催された展覧会の日本巡回展。
会場は、トム・サックス本人が自らの作品(おそらくニューヨークのノグチ美術館で開催された「ティーセレモニー」展)で実演した茶会の模様を映像で紹介する「THEATER」、鯉の泳ぐ池や待合を設置した「OUTER GARDEN」、蹲踞や茶室のある「INNER GARDEN」、茶箪笥などを展示する「HISTORICAL TEA ROOM」、掛軸などを展示する「CORRIDOR」から構成されている。NASAのロゴと白い宇宙服とをイメージした赤と白を基調にデザインされた茶道具や設えなど約40点が展示されている。
白い肌に赤のNASAのロゴが入り金継ぎまで施した茶碗、電動工具を仕込んだ茶筅、マクドナルドのロゴの掛軸、ヘルメットでできた兜、綿棒と歯ブラシの松など、茶道を茶化したような作品が並ぶ。もっとも、茶道と宇宙との組み合わせは、極小の茶室という身体空間と無辺の宇宙とを接続する仕組み・仕掛けとして構想されているようだ。INNER GARDENの茶室の床の間の設えを3台のカメラで捉え、リアルタイムでOUTER GARDENの壁面に投影しているのは、身体(ミクロコスモス)と宇宙《マクロコスモス)とを接続するためだろう。待合や掛軸には円相(宇宙)が描かれ、木材の随所には丸い穴が開けられているのも、自己と宇宙との調和を目指す、トム・サックス流の茶道精神の象徴ではないか。INNER GARDENとOUTER GARDENとの境界にある中門の傍にはコンスタンティン・ブランクーシの《The Kiss》を模した作品が設置されているが、それ自体男女和合の象徴であり、接続がイメージされているが、ブランクーシの原作よりも男女がつくる円が強調され、数々穿たれた捻子の頭は星々を表すかのようだ。段ボールで制作された《Narrow Gate》はイサム・ノグチが玄武岩で制作した同名の彫刻作品を模したものだ。「ティーセレモニー」の冒頭に設置された「狭き門」は躙り口の謂であろう。自らの存在を極小化することで、広大な宇宙が展覧会場に開けることになる。