可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 飯嶋桃代個展『〈疾患〉と〈治癒〉 通過儀礼としてのイナバノシロウサギ説話』

展覧会『飯嶋桃代展「〈疾患〉と〈治癒〉 通過儀礼としてのイナバノシロウサギ説話」』を鑑賞しての備忘録
ギャルリー東京ユマニテにて、2019年6月1日~15日。

飯嶋桃代による「因幡の白兎」をテーマとしたインスタレーションを紹介する企画。

洪水で小島に漂着したウサギは、サメたちを言いくるめて舟橋のように並べさせたが、遂に対岸に到達するという段になって所期の目的をばらしてしまったがために、騙されたと悟ったサメたちに毛皮を剥ぎ取られてしまう。通りすがりの兄弟神は苦悶するウサギに海水で禊を行わせるが、ウサギの苦痛の度合いは増すばかり。ところが、少し遅れてやって来た末弟のオオクニヌシの指示通り、河口の水で洗ったうえで蒲の花粉をまぶすと、ウサギの傷は癒えた。ウサギは神に変じて、兄弟神が狙っていた因幡ヤガミヒメと結ばれるのはオオクニヌシであることを予言する。この「因幡の白兎」の物語におけるウサギが神へと変じる点を捉え、疾患と治癒により回復(=リハビリテーション)する物語ではなく、疾患を機に以前とは別の高い次元へと到達(=リカバリー)する物語と解釈したという。

冒頭には、ウサギやワニや海を捉えた映像が流され、そのモニターの傍には毛皮、モニターから少し離れた所に小島をイメージした石と、その石の上に「因幡の白兎」の縮緬本(明治期に制作された、日本の説話を外国語で紹介する冊子)が置かれている。続いて、海岸の位置を表示したiPadなどが置かれたベビーバス、さらには皮膚模型や蒲黄などが並ぶ。アジアにおける「因幡の白兎」型の説話がウサギだけでなくキツネやネズミを主人公にして語られてきたことを示した地球儀も展示されている。最後にベビーベッドから変化・上昇していくウサギらしき姿のオブジェが設置されている。また、会場内には、ウサギの眼をイメージした赤く光るボールが、床面を転がっている。


展示の冒頭、石の上に縮緬本が無造作に置かれているのは、このインスタレーションを象徴する。縮緬本は、日本の説話に海を越えさせる手段であるのみならず、外国語への翻訳という変容を伴う。

会場内を転がる赤い光のボールは、ウサギが蒲の花粉を地面に撒いて転がった場面の再現であろう。つまり変容をもたらす治癒の過程にあるのだ。

河口は汽水域であり、その水は生理食塩水に近いという指摘が興味深かった。

外部からやって来る者(神)がもたらすものは、禍福いずれをも含む。それらとの交渉を経て、以前よりも高い次元へと到達することが可能となる。移民問題に通じるか。

自然災害からの復旧ではなく、復興というテーマにも通じる。