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芸術鑑賞の備忘録

映画『さよなら、退屈なレオニー』

映画『さよなら、退屈なレオニー』を鑑賞しての備忘録
2018年のカナダ映画
監督・脚本は、セバスチャン・ピロット。
原題は、"La disparition des lucioles"。

カナダのサグネー川に面した港町に住む女子高校生のレオ(Karelle Tremblay)。誕生日を母(Marie-France Marcotte)と継父ポール(François Papineau) 、代父母の4人がレストランで祝うという。遅れて到着したレオに、まず指摘されたのが化粧をしていないこと。口紅を母から借りて塗ったレオは一言「売女っぽくない?」。迫る夏休みの話題になり、母はアルバイトをせずにだらだれされたら困る、代父は市役所の知り合いを紹介するという。レオは「修道院」とそっけない返事。ポールの出家するのかと大袈裟なリアクションに、調理補助だと答えると、大食らいの奴はいないだろうとポールの返し。レオは手を洗ってくると席を立ち、口紅を拭うと、レジで飴をいくつか手に取り、店の外へ出る。ガラス張りの厨房で肉を焼く炎が上がる。レオは飴を銜えたまま走り出し、発車寸前のバスに飛び乗る。車内の広告には、「ラジオの王」というキャッチ・コピーとともにポールのラジオ番組の広告が貼り出されていた。同級生が屯するダイナーに合流したレオは、カウンター席に座る男性(Pierre-Luc Brillant)に惹かれる。女友達はデロリアンに乗って来たのかとその男をからかうが、レオは気になって仕方がない。後日、レオがダイナーでその男を再び見かけ、星座を聞き出そうとする。何座か当ててみろと言われ、11個指摘して全てを外し、ようやく山羊座だと分かる。だが、レオは、スティーヴという名前は一発で当てることができた。弁護士事務所で働いているのかと尋ねるレオに、スティーヴはミュージシャンだと告げる。ギターを教えているという。レオが厨房でのアルバイトをするために修道院に向かうと、厨房を担当していた修道女が亡くなり、彼女がレオと約束しているとは知らず、既に別の人物を雇ったという。激昂するレオは代父に市役所の知人を紹介してもらう。紹介されたのは、実父シルヴァン(Luc Picard)の工場の元同僚だった。シルヴァンは地元の工場の労働組合の委員長をしていたが、工場は閉鎖され、シルヴァンは北部の遠い勤務先へと転属になっていた。レオが継父を頑なに受け容れない理由の一つは、ポールがラジオ番組でシルヴァンの要求が工場の閉鎖に繋がったと誹謗していることにあった。レオは市役所の男から図書館の仕事を紹介されると思っていたが、市営球場の管理の仕事だった。ナイターのための水銀灯を着けたり、グラウンドの白線を引いたりするのが業務内容だった。レオは中古でギターを手に入れると、スティーヴの家へと向かった。

 

いらついている女子高校生の日常の些細な出来事を追いかけている。それでも、ぐにゃぐにゃと曲がった白線をグラウンドに引いていたレオがかなり真っ直ぐなラインを引けるようになるように、ギターを手にしたことがなかったレオが3つのコードを弾けるようになるように、レオのささやかな成長と喜びとを伝えるちょっとした変化に魅了されていく。

原題は「蛍の絶滅」を意味する。
ポールは聴取率トップのラジオ番組のパーソナリティーであるが、蛍の絶滅は人間の活動によるとの研究者の主張を話題に、カナダは原住民のことなんて気にせず建国されたし、生き物のことなど気にしていたら落ち落ち水たまりも歩けやしないと揶揄する。このような描写そのものがポピュリズムの風潮に対する揶揄になっている。
レオは父が活躍していた工場に極めて強い愛着を持っている。そのため、今は失われた工場のことを細かく記憶している。工場で働いていた人たちは、工場を突然閉め出され、持ち物はゴミ袋に入れて渡されたのだと憤る。
夜空を見上げたレオは、月の方が遙かに人間らしい、人間こそ岩石だと吐露する。無垢な心こそ現実に引き裂かれ、血しぶきを上げる。まばゆい理想的な生活にバットを振り下ろしたとき、暗闇にかすかに光る希望が見えてくる。