可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 風間サチコ個展『東京計画2019 vol.2 風間サチコ』

展覧会『αMプロジェクト2019 東京計画2019 vol.2 風間サチコ』を鑑賞しての備忘録
gallery αMにて、2019年6月1日~7月13日。

2020年の五輪に向け再開発が進む東京に対し、1960年の東京五輪の際に丹下健三が発表した「東京計画1960」を引き合いに、オルタナティヴな都市像を考えるきっかけを呈示するシリーズ(キュレーター:藪前知子)の第2弾。

《青丹記》はフジテレビ本社ビルらしきものがどのようにして建設されたかを記した縁起。空から東京湾に降ってきた輝く球体を人々が漁船を出して回収し、櫓を組んだ上に安置して祀ったというストーリー。左から右へと同じサイズの用紙に1場面ずつが描かれたマンガのよう。横山裕一作品のような妙な魅力を持つ。寺社縁起の絵巻物と異なり、右から左へと展開する点に偽書としての性格を付与しているのかもしれない。丹下健三の「東京計画1960」は東京湾に新たな居住地域を設ける計画であった。東京湾の埋め立て地に丹下が設計したフジテレビ本社ビルが建設されたのは1996年。計画から実現へのリニアな大きな力を、アナクロニズムで断ち切り、解体する試み。

《ディスリンピック2680》は、皇紀2680年、ディスリンピアで開催される五輪開会式を描いた巨大な版画作品。皇紀2680年は西暦換算すれば2020年。会場は隈研吾の「杜のスタジアム」を髣髴とさせなくもない。ギリシャ建築に見られるような柱は何も支えておらず、スタンドには一人も観客がいない会場でマスゲームのように人が並ぶ。中央奥にはバベルの塔のような構造物があり、人々がその頂点を目指している。甲種に分類されなかった人々は会場の隅にある穴に埋め立てられ、白い鳩が飛び立つ中、黒い烏のみが射落とされる。"The situation is under control."

 ユートピアの特徴として挙げた規則性、反復性、閉鎖性。城壁があり、とざされていて、人間は役割と機能に還元され、巨大な時計のようにすべてが運んでゆく。時間割があり、歴史が否定され、ただただ反復がなされる。ちょうど時計の文字盤さながらに展開してゆくという社会。それは意外にもサドが描いたものとそっくりではないか。『ソドムの百二十日』でも『悪徳の栄え』でも、どの作品でもそうなっているわけです。
 ユートピアをつきつめればけっして良い国ではなく、とてつもない悪の社会になりうるとうことを、サドは十八世紀に察知してしまった。だからこそサドの作品は現代に対して有効です。(巖谷國士シュルレアリスムとは何か』ちくま学芸文庫〔ちくま書店〕2002年p.265~266。)