可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 今村文個展『見えない庭』

展覧会『第13回 shiseido art egg 今村文展「見えない庭」』を鑑
賞しての備忘録
資生堂ギャラリーにて、2019年7月5日~28日。

表題作《見えない庭》は、ベッドが置かれ、ドア・窓・曇りガラスの障子を備えた「寝室」と、その周囲に点在するクローゼット、チェスト、机とに、紙で作られた植物と昆虫とが蔓延るように飾り付けたインスタレーション。「自我のない」「純粋な心だけの状態の」「花と虫とでできてい」る庭。作者はそこに自らと「鑑賞者を埋葬したい」と言う。

庭は、私的な空間であり、自分の思い描く環境を追求できる場と言える。だが、草が生い茂ったり、虫が湧いたりと、理想の実現を妨げる要因が発生する。思うがままであるはずの自己のイメージ(=庭)を縛るのは、心(=草・虫)なのではないか。心は放っておくと知らぬ間に肥大して自らを強力に覊束する。いつの間にかあるべき自分の姿は見えなくなる(=見えない庭)。だが、「見えない」と言えるのは、不可視の存在を前提しているからこそだ。「見えない」との呪文を唱え、自らを可視化すること召喚する。鑑賞者は、心に覆われた自己を地下に残し、解き放たれた自己として地上に帰還することになる。