映画『マーウェン』を鑑賞しての備忘録
2018年のアメリカ映画。
監督は、ロバート・ゼメキス(Robert Zemeckis)。
脚本は、ロバート・ゼメキス(Robert Zemeckis)とキャロライン・トンプソン(Caroline Thompson)。
原題は、"Welcome To Marwen"。
第二次世界大戦のベルギー。アメリカ空軍のホーギー大尉(Steve Carell)の操縦する戦闘機は、花火のような対空砲火の中を飛行している。遂に右翼に被弾し炎上したため、森を縫うように流れる川へ不時着水を試みる。着水に成功し、戦闘機から脱出することができたが、軍靴に火が燃え移ってしまった。ホーギーはやむを得ず靴を脱ぎ捨て、足にシートを巻くことで歩き始めた。道路脇に自動車が横転して打ち捨てられていて、その中には彼は放置されたトランクを見つける。トランクには女性用の衣類と高いヒールの靴とが入っていて、ホーギーは靴を拝借することにする。草原を抜けた所で、トップ大尉(Falk Hentschel)率いるナチスの兵士に行方を阻まれ、ホーギーはやむを得ず投降する。その際、彼がヒールを履いていることを知ったトップが、彼を嘲笑い、陽物は必要ないだろうとナイフを取り出すと、ホーギーがトップの股間を蹴り上げる。ホーギーがナチスの兵士たちによって殺されそうになるところで、突然銃撃が始まり、蜂の巣にされたナチス兵たちがばたばたと斃れていく。銃撃したのは、様々なコスチュームに身を包んだモデルのような女性たち。間もなくして、場面が揺れると、写真機のファインダー越しの映像であることが明らかになる。マーク・ホーガンキャンプ(Steve Carell)は、自宅の敷地に「マーウェン」と名付けたジオラマを設置してフィギュアを被写体とした写真作品を制作しており、これまでの映像はマークの頭の中のストーリーを再現したものなのであった。地面が揺れたのは、向かいに引っ越してきた住人の家財道具を運ぶトラックがすぐそばを通ったためだった。撮影を中止して自宅に戻ったマークは、フィギュアをしまい、向かいの家の様子をこっそりとうかがう。マークは、酒場で集団から暴行を受けて、瀕死の状態から生還したものの、過去の記憶を失うとともに、極度に他人に怯えるようになっていた。定期的に訪れる介護士のアナ(Gwendoline Christie)からは用量を守るよう強く諭されているが、不安を抑えるためについ処方薬を過剰に摂取していた。薬に救いを求めながらそれが良くないことだと分かっているマークは、デジャ・ソリス(Diane Kruger)と名付けたフィギュアを薬の化身かつ悪魔として祀っていた。ところで、向かいの新たな住人は赤毛のチャーミングな女性ニコル(Leslie Mann)だった。彼女にまとわりついて避けられているカート(Neil Jackson)という男の存在もあわせて知ることとなった。ニコルを気に入ったマークは、早速ロバータ(Merritt Wever)のホビー・ショップに向かい、赤毛の人形を求める。マークのことを大切に思っているロバータは、近日実施されるマークに対する暴行犯の求刑手続にマークが出廷して意見を陳述し、被告たちに相応の刑を負わせたいと考えていた。だが、マークは出廷を何とかして避けたいと考えていた。
現実の世界からシームレスにつながるフィギュアの世界を再現した映像が非常に精巧で素晴らしい。そのフィギュアの世界を象徴するのが服用薬と同じ緑色のデジャ・ソリスである。すなわち、フィギュアの世界=薬は、マークの苦痛を取り除くために大きな力を発揮しているが、過剰な依存はかえってマークの心身を蝕んでいくことになるのだ。悲惨な出来事に遭遇したマークを優しく受け止める人々の存在こそが、フィギュアの世界(=箱庭)と現実の世界との相互通行を可能にし、それが彼のリハビリテーションとなるだろう。