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芸術鑑賞の備忘録

映画『存在のない子供たち』

映画『存在のない子供たち』を鑑賞しての備忘録
2018年のレバノン映画。

監督は、ナディーン・ラバキー(Nadine Labaki)。
脚本は、ナディーン・ラバキー(Nadine Labaki)、ジハード・ホジェイリ(Jihad Hojeily)、ミシェル・ケサルワニ(Michelle Keserwany)、ジョルジュ・ハッバス(Georges Khabbaz)、ハーレド・ムザンナル(Khaled Mouzanar)。
英題は、"Capernaum"。
仏題は、"Capharnaüm"。
原題は、كفرناحوم。

レバノンの首都ベイルート。推定12歳のゼイン・エル・ハッジ(Zain Al Rafeea)は、人を刺した廉で刑期5年を言い渡され、収監された。本人は疎か母スアード(Kawsar Al Haddad)も父セリーム(Fadi Yousef)も彼の正確な生年月日を知らず、年齢は医師が歯の状態から推定したものだった。在監中、ゼインは偶然児童虐待を伝えるテレビ番組を目にする。番組が視聴者に意見を募るのを知ると、ゼインは電話をかけて生番組に出演し、自らの境遇を訴える。これがきっかけとなり、ゼインは両親に対し民事訴訟を起こすことになった。法廷に召喚され、裁判官から訴因を尋ねられたゼインは「僕を生んだ罪」と答える。
ゼインは両親と多くの弟妹とともにスラムに暮らしていた。ゼインは偽造の処方箋で薬局からトラマドール錠剤を購入すると、粉砕して水に溶いた液体に服に浸し、母が収監されている親族にその服を刑務所内で捌かせていた。また、弟妹たちと自家製の飲み物を拵えては路上で売っていた。さらにゼインは家主のアサド(Nour El Husseini)が営む雑貨店の雑用もこなしていた。バンで学校に通う子供たちを横目にゼインはアサドにこき使われていた。しかもアサドはゼインの大切な美しい妹サハル(Haita 'Cedra' Izzam)を手に入れようと、サハルの歓心を買うことに腐心していた。ゼインはアサドのような男にサハルを委ねることはできないと固く心に誓っていた。ある朝、隣で寝ていたサハルのシーツに血痕を見つけ、サハルの服にも血が着いているのを確認したゼインは、サハルの服を脱がせて必死に洗う。血を洗い流した下着をはかせると、自らのTシャツを丸めて渡し、下着の中に入れておくように伝える。ゼインは初潮を迎えたと知られれば、両親がサハルをアサドのものにしてしまうことを察知していた。ある日帰宅すると、アサドが来ていて、美しく化粧して着飾ったサハルもそこにいた。ゼインはサハルとともに家出して二人で再出発することを計画する。サハルの服をまとめ、アサドの雑貨店から必要なものをいくつかくすねて荷物を用意し、バスの運転手に座席1つの利用なら一人分の運賃でいいかを確認した上で自宅へサハルを迎えに行く。サハルはまさにアサドのもとへと連れ出されるところで、ゼインは必死にサハルを引き離そうとするが、結局父の運転するバイクでサハルは連れ去られてしまう。妹を守ることができず失意のどん底にあるゼインは、母親の罵声を浴びながら家を飛び出す。そして、サハルと乗るはずだったバスに一人乗り込むのだった。バスに揺られていると、途中で、隣の席にスパイダーマン風の扮装をした老人(Joseph Jimbazian)が座る。スパイダーマンの親戚の「コックローチマン」だという。ゼインが祖母に会いに行くというと、自分は一人なのでその祖母が羨ましいとその老人が言う。遊園地のそばで老人が下車すると、ゼインも老人を追いかけることにし、急遽バスを降りる。ゼインは遊園地で老人の姿を追うが見失ってしまう。ゼインは遊園地で仕事をもらおうと出会う人に片っ端から声をかけるがうまくいかない。声をかけて言葉を交わした一人がティゲストと名乗るアフリカ系の女性(Yordanos Shiferaw)だった。数日間徘徊して困窮したゼインはティゲストに食べ物をねだり、そのままティゲストのバラックに居着く。ティゲストは仕事の間、乳児のヨナス(Boluwatife Treasure Bankole)の面倒をゼインに見てもらうことにする。

 

前半のゼインとサハルの強い絆と悲惨な別離とに痛切な思いを禁じ得ないが、中盤からのゼインとヨナスの生活がまた見るに忍びなく、本当にフィクションなんだろうかと疑いたくなるほどリアリティがある。シリア難民向けの配給の列に並んだ困窮極まるゼインが一番必要なものをと問われ「ミルクとおむつ」と答えるのにぐっと来て、その後「ラーメンとポテトチップス」と子供っぽい答えを続けるところなど本当に切なくなった。