可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 小泉明郎個展『Dreamscapegoatfuck』

展覧会『小泉明郎展「Dreamscapegoatfuck」』を鑑賞しての備忘録
無人島プロダクションにて、2019年7月20日~8月31日。

2画面の映像から成る《Battlelands》(2018年)は、イラク戦争アフガニスタン戦争に従軍した帰還兵7名に戦地での経験を話してもらった音声と、彼らに目隠しをした状態で頭部にカメラを装着して撮影した動画など日常の光景の映像とを組み合わせた作品。例えば、自宅へ車を走らせている何気ない動画に、戦地での移動中、白いトヨタの接近に危険を感じ、上官に射撃許可を必死にもらおうとした話がかぶせられる。実際に白い乗用車が手前を走行し、またFPSゲームのプレイ動画まで組み合わされ、日常と戦地とがリンクしていく。あるいは、花火大会の最中の街並みを撮影した動画に、命じられるまま攻撃目標も戦果も知らされることのないまま砲撃を行った話が重ねられ、砲弾によって失われる生活や生命に想像を膨らませられる。また、自宅の間取りを説明する映像と、劣悪な環境の監獄に収容された少年の話題とが組み合わされ、自由を奪われる状況を考えさせられる。時空をねじ曲げるかのように日常を戦地へと接続させてしまうのは、戦争の現実を体験した人の語りの強度と作家の構想力・構成力の賜物だろう。

《Sacrifice》(2018年)はマウントディスプレイとヘッドフォンを用いて鑑賞するVR作品。アメリカの兵士の体験を描いた《Battlelands》と対になる作品で、イラク人のアハメッドの体験をテーマにしている。アハメッドは家族と歩いている最中にアメリカ軍のヘリコプターによる銃撃を受けた。その際の記憶と失った家族に対する思いとを語るアハメッドへ鑑賞者が憑依する体験を迫る。仮想とは言え個人的な関係性を生じさせることでマスメディアを通じて知るのとは大きく異なるイラクへのイメージが立ち現れる。但し、このような作品を可能にした技術が作家とは違う狙いの下でも使われうることは、少年の身体がバラバラにされて組み合わされた立体作品《Sleeping Boy》が喚起する感情が平和と戦争とのどちらへも転がっていく可能性を作者自らが示唆している通りだ。