展覧会『ジュリアン・オピー』を鑑賞しての備忘録
東京オペラシティ アートギャラリーにて、2019年7月10日~9月23日。
ジュリアン・オピーの近作(2018年~2019年)を作品を紹介する企画。
《Walking in New York 1》と《Walking in Boston 3》とは、街を行き交ういずれも5人の人物を横からとらえた絵画。前者は淡い水色を、後者は薄い黄色を背景に、黒い太い単純な線を必要最低限で描き、顔や服やバッグなどの部分ごとに一色で塗りつぶした人物が、590cm×671cmという大画面いっぱいに配されている。極めて平板な印象を受けるが、輪郭線となる黒い部分は壁に直に塗料が塗ることで表わし、色の部分は塗装した厚みのある木材である。平面と立体との境界や輪郭線と描線との関係性を往き来する作品となっている。6メートルを超える人物にも拘らず、鑑賞者に圧迫感を与えない軽やかな存在感を示しているのも不思議だ。
《Sam Amelia Jeremy Teresa》はナイロン製の青い画面に赤・白・黒・黄で人物を表わし電球で人物を浮かび上がらせている。光源からの位置・距離による明度の差が生じないように制作されているため、平板さがきちんと保たれている。
《Jada Teresa Yasmin Julian》は赤い背景の中を走る4人の様子が映し出されるアニメーション作品。登場する度にそれぞれの人物に与えられる色が変わる。女性の胸の繊細な揺れの表現より、ジョギングにふさわしくない衣装で走る人物が気になる。
《River 3》、《Vallry》、《Wheatfiels》は、自動車用塗料を施したアルミニウムを重ねて作られた風景画。作家の描く人物たちと同様、シンプルな形の組み合わせでありながらしっかりと風景を起ち上げている。
帽子や鞄が表わされているにも拘わらず、靴(足)が意図的に表現されていない作品が多い。作者が風景画から人物を排しているとするなら、footprint(環境への影響)を残さない人間像を描き出すという牽強附会の解釈もできそうだ。また、《3 stone sheep》
に、作家自ら、石を羊へと変じさせる黄初平たらんとの意志を読み取れば、スマホを手に下を向いて歩く人々を、スクリーンから現実世界へと連れ出す仙術を用いているとも解される。