映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』を鑑賞しての備忘録
2019年の日本映画。
監督は、蜷川実花。
脚本は、早船歌江子。
作家太宰治こと津島修治(小栗旬)は、妻・美知子(宮沢りえ)が三人目の子を懐妊中、太田静子(沢尻エリカ)と手紙をやり取りしていた。修治には、静子の日記を作品の題材に使いたいという考えがあった。修治との恋を成就させたい静子が思いがけず修治の自宅に押しかけると、修治は慌てて静子を行きつけの店に連れ出す。修治の考えに気付いていた静子は、修治の子どもを生むことを条件に、曽我にある静子の住まいで日記の閲覧を認める。修治は梅の花が咲き乱れる中、静子のもとを訪れる。一夜だけ過ごして翌朝には発つが、思いがけず静子への情が募った修治は、静子のもとに舞い戻り数日を過ごす。同時期に修治は「ヴィヨンの妻」を発表していた。献身的な妻は美知子がモデルだろうと周囲は噂する。修治が取り巻き連中と飲んでいてその話題になると、そんな妻は存在しないという話題で盛り上がる。その中、山崎富栄(二階堂ふみ)だけは存在すると断言する。修治は富栄に欲情を催して誘惑する。富栄は修治との恋が身を賭したものだと信じている。だが、太宰治の担当編集者である佐倉潤一(成田凌)は、太宰の富栄への愛情は、執筆や家庭、そして太田静子との関係から来る煩悶からの逃避に過ぎないと見抜いていた。その最中、修治は静子の日記に触発されて書き上げた『斜陽』を発表し、センセーションを巻き起こすのだった。
太田静子(沢尻エリカ)に梅花などピンク、山崎富栄(二階堂ふみ)に緑(赤の補色)の衣装や内装をあてがいつつ、蟹や血で赤を差し、妻・美知子には和風建築の暗く彩りのない室内を添わせながら、最後に青い彩りを与えるところなど(母子のインク「ペタペタ」で「お父さん」無き世界への跳躍、そして庭の花!)、色彩で三様の女性を表現する手際はさすが蜷川実花。終盤の破壊を創造へと転換する表現も監督の世界観、作品にぴったりはまっていた。ラストシーンもキュートさを加えて爽快に仕上げていた。
津島修治(小栗旬)にも書けないとか肺の病とか懊悩があるのだろうが、とにかく恰好の良すぎる小栗太宰からは悲壮感が伝わってこない。女性たちを夢中にさせる力の視覚化には十二分に成功している。キュートさもなかなか(「虫が虫が」で妻の気を惹くエピソードは実話なのだろうか?)。
藤原竜也の坂口安吾も、見た目は眼鏡くらいしか共通点がないが良いキャラクターが造形されていた。端役では木下隆行が一瞬の登場ながら印象を残した。