映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』を鑑賞しての備忘録
2018年のアメリカ映画。
監督・脚本は、ボー・バーナム(Bo Burnham)。
原題は、"Eighth Grade"。
ケイラ・デイ(Elsie Fisher)は、ニューヨーク州にある公立ミドル・スクールの卒業を控えた8年生。内気でクラスメイトとうまく会話もできない自らを変えようと、日々を前向きに過ごすためのアドヴァイスを考案して、YouTubeに動画をアップしている。食事中も父親マーク(Josh Hamilton)そっちのけにSNSのチェックに余念が無いが、オフラインでつながりのないケイラの投稿に、チャンネル登録はおろかアクセスもない。自己啓発の努力も虚しく、卒業予定者による投票で「最も無口な生徒」に選ばれたケイラは、他の部門の受賞者とともに別室に招かれ、順に記念撮影することになる。ケイラが目を奪われたのは、「最も美しい瞳」に選出された男子エイデン・ウィルソン(Luke Prael)。彼にケイラはほのかな恋心を抱く。一人家路に着いたケイラを、迎えの車から「黄色いシャツの子」と呼び止める声がする。それは「最も美しい瞳」に選出されたケネディ・グレイヴス(Catherine Oliviere)の母親(Missy Yager)だった。ケイラの父マークから受けた援助のお礼に、明日の自宅のプール開きに招待したいという。母親の脇にいるケネディが露骨に嫌がっているため、ケイラは曖昧に断ろうとするが、是非来て欲しいと押し切られる。自ら変わろうと努めるケイラはYouTubeにアップしている自分のアドヴァイスと父の説得とに背中を押され、マークの車で何とかケネディの家に向かった。遅れて到着したケイラは不安のあまり過呼吸になりかける。だが意を決して水着に着替えると、大勢が楽しむ賑やかなプールに挑む。華やかな女子。頭の悪そうな男子。その中に一際クールなエイデンの姿を見かけて心が高鳴る。それでもケイラはプールの隅で佇んでいると、逆立ちを自慢してくるちょっと風変わりな男子(Jake Ryan)に話しかけられる。ゲイブと名乗るその少年に潜水競争をしようと誘われ成り行きで遊んでいると、女子の記念写真を撮るからと集合がかかる。スタイルのよいビキニ・スタイルの少女たちの影に、ぽっちゃりとした身体を隠そうと最後列に並ぶケイラ。だが、ケネディの母親に顔が見えないと最前列に出るよう言われてしまう。続いて招待者が持参したケネディへのプレゼントが紹介されていくが、ケネディが可愛いと喜ぶ可愛いシャツに続いて登場したケイラのカード・ゲームに、場は静まりかえる。心の折れる状況の連続に、パーティーは終わり、帰りを待っているのは私だけだと、室内に移って盛り上がるパーティーの輪を尻目に、別室から父に迎えの車を一人要求するケイラであった。
さえない自分を変えたいと奮闘するケイラに立ちはだかる障害は、傍から見ているのとは異なって、本人にとっては字義通り死活問題だろう。ケイラの行動が痛々しく、愚かしく、ときに暴走気味となってしまうのもやむを得ない。打ち拉がれて自分への希望を失うケイラの悲痛な気持ちがまざまざと感じられるとともに、ケイラを温かく見守るマークの優しさに思いを重ねることができる。
ケイラとマークの父娘がともに素晴らしく、父娘の物語とも言える。
随所に鏤められたエイス・グレードの少年少女たち持つ無邪気さや子供っぽさは、鬱屈や絶望の隙間にある希望や可能性を示唆するとともに、デジタル・ネイティヴの彼ら/彼女らの世代や時代との違いを超えた共感の糸口になっている。