可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『不思議の国のアリス展』

展覧会『不思議の国のアリス展』を鑑賞しての備忘録
そごう美術館にて、2019年9月21日~11月17日。

不思議の国のアリス』をテーマにした展覧会。
作者ルイス・キャロル自身とジョン・テニエルの挿絵によるオリジナルの書籍を紹介する「1章 始まりの話:アリス誕生」、7名のアーティストによるイラストレーションにより『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』とのあらすじをたどる「2章 アリスの物語:不思議の国への招待」、映画やアニメーションなどに翻案された作品や、アリスの物語をもとに翻案されたアートワークを展示する「3章 アートの国:世界が愛する永遠のアリス」の3章から構成。

「1章 始まりの話:アリス誕生」
ルイス・キャロルことチャールズ・ラトウィッジ・ドジソンを紹介。オックスフォード大学のクライスト・チャーチの数学講師であるキャロルは、『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』の他、『スナーク狩り』や『もつれっ話』、『シルヴィーノとブルーノ』などを創作した。学寮長ヘンリー・リデルの娘たちにせがまれて語った物語を、次女アリスから本にして欲しいとねだられ、ドジソンは『地下の国のアリス』という手書きの本を贈った。これをもとに、画家ジョン・テニエルの挿絵(テニエルによる下絵を展示)を付した『不思議の国のアリス』が刊行された。ドジソンが写真術を趣味にし(アリス・リデルの肖像写真(複製)を展示)、『不思議の国のアリス』の挿絵を自ら手がけようとしていたことも紹介される(ドジソンによる「涙の池」の場面のスケッチを展示し、ドジソンがテニエルに指示を出していた逸話も紹介)。

「2章 アリスの物語:不思議の国への招待」
不思議の国のアリス』のあらすじを順に数点ずつ、チャールズ・サントーレ、ヘレン・オクセンバリー、ロバート・インペンのイラストレーションを組み合わせてたどり、『鏡の国のアリス』の物語を同様にラルフ・ステッドマン、ジョン・ヴァーノン・ロード、バリー・モーザー、アンヘル・ドミンゲスの絵を通じて紹介する。

「3章 アートの国:世界が愛する永遠のアリス」
冒頭では、1903年の映画『不思議の国のアリス』(監督はセシル・へプワースとパーシー・ストウ。約12分)と、1933年の映画『不思議の國のアリス』(監督はノーマン・Z・マクロード)の予告編(2分34秒)の映像が紹介される。オペレッタやアニメーションが制作された際の資料に続き、アーサー・ラッカム、ヤン・シュヴァンクマイエル、ウラジミール・クラヴィヨ=テレプネフ、清川あさみ、清水真理、山本容子らのアートワークが展示される。

 

1章では『地下の国のアリス』と『不思議の国のアリス』との差異を紹介して欲しかった。

2章で『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』のあらすじを紹介するが、ジョン・テニエルの影響力を示すためにも、テニエル自身の図版をあわせて紹介し、他の作家の作品と比較できるようになっていると良かった。また、作家の作品が数点ずつ紹介される形は、その作家の世界観に没入しかけるとそこから引き離されるような、消化不良の感を引き起こさせた。

不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』の背景や解釈について、誕生から150年間(あるいは近年)の研究成果を期待したが、テニエルの図像の翻案とその展開がただ陳列されているだけという印象であった。anno labの《ミミクリーの部屋》(鑑賞者の動きに合わせて、図像が動く仕掛けのあるインスタレーション)を楽しめるタイプの人なら満足できるだろうか。さもなくば、展覧会場を舞台に併催されている脱出ゲームの会場に闖入する羽目になったと思うことになるのではないか。