映画『帰ってきたムッソリーニ』を鑑賞しての備忘録
2018年のイタリア映画。
監督は、ルカ・ミニエーロ(Luca Miniero)。
脚本は、二コラ・グアッリャノーネ(Nicola Guaglianone)とルカ・ミニエーロ(Luca Miniero)。
原題は、"Sono tornato"。
2017年のイタリア。映像作家のアンドレア・カナレッティ(Frank Matano)はイタリア人のアイデンティティをテーマにドキュメンタリーを鋭意制作中。ローマのヴィットーリオ広場でサッカーに興じる子供たちの中からアフリカ系と思しき子供を見つけ、その困窮に迫るというステレオタイプな映像を撮ろうとして、苦戦していた。その時、広場にある史跡「魔法の門」に、軍服姿のベニート・ムッソリーニ(Massimo Popolizio)が落下する。自分が再生したことを知ったムッソリーニは街行く人の姿にエチオピアに侵略されたのかと訝る。そして、エディコラ(売店)で新聞のトップに「同性婚法案可決」とあるのを目にしたムッソリーニは卒倒してしまう。エディコラの店員に救われたムッソリーニは新聞で状況を把握し、「自宅」であるヴィッラ・トルローニアへ向かう。博物館のスタッフと子供たちが退去してやって来て、ムッソリーニは飛び起きて寝室を後にする。そこで「ムッソリーニ」を探していたカナレッティと鉢合せる。カナレッティはテレビ局My TVの次長ダニエーレ・レオナルディ(Gioele Dix)に映像を売り込みに行ったところ、折悪しくダニエーレはカティア・ベリーニ(Stefania Rocca)に局長の座を奪われて虫の居所が悪く、テレビ局から追い払われてしまった。失意のカナレッティが映像素材の編集をしていると、偶然「ムッソリーニ」が映り込んでいることに気付き、聞き込みの果てにヴィッラ・トルローニアへ辿り着いたのだった。カナレッティは「ムッソリーニ」の隙の無い堂に入った演技に感嘆し、彼をインタヴュアー役にイタリアを巡るドキュメンタリーを制作することを思い付く。こうしてムッソリーニと監督の撮影旅行が始まるのだった。
ヒトラーが再臨した現代のドイツを描いた映画『帰ってきたヒトラー(Er ist wieder da)』(2015)を、ムッソリーニを主役にイタリアを舞台に制作された作品。あらすじだけでなく、街頭に現れた「ムッソリーニ」に対する人々の反応などドキュメンタリーのパートも同様に盛り込まれている。
若者や老人の困窮に対して政治が無策であり、人々もスマートフォンの画面に没入し、若者の理想が料理人になることだけという現状に警鐘を鳴らすムッソリーニ。正鵠を射た彼の指摘に熱狂する人々というフィクション部分だけでなく、独裁を容認し、移民を排撃する市井の人々の姿が映し出され、ファシズムの土壌が用意されている現実が浮かび上がる部分に薄ら寒さを感じずにいられない。
ヒトラーほど激しいキャラクターではないためにムッソリーニにはマイルドな印象を受ける。それが警戒心を緩めることにもなりかねない。
ドイツ、イタリアと来たら、次は日本ということになろう。だがヒトラーやムッソリーニほど突出した人物がいない日本の場合、複数の人物を再生させる必要がありそうだ。