可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 吉田和夏個展『やわらかに』

展覧会『吉田和夏個展「やわらかに」』を鑑賞しての備忘録
GALLERY MoMo Projectsにて、2019年10月26日~11月23日。

恐竜をモティーフにした絵画を中心に、吉田和夏の24点の作品を紹介する企画。

アクリル絵具で大画面(194.0×130.3cm)のキャンバスに描かれた《パラレルなパノラマ1》(2019年)。黄色いケースが印象的な小学館の学習百科図鑑シリーズの『地球』が開かれている。子供向けのプラスティック製の緑のルーペが宙に浮き、図版の一部を拡大している。このルーペが図鑑の世界へ侵入する入口になっている。そこをくぐれば、荒々しい岩山がそそり立ち、その脇では水が滝のように荒々しく図鑑の外へと落ちていく。山の向こうの青空へ目をやれば、図鑑『宇宙』が羽を広げるように開かれている。そこから色鮮やかな惑星が飛び出し、滝へ向かって落ちてくる。やはりアクリル絵画(38.0×45.6cm)の《safari》(2019年)。木の棚に小学館の学習百科図鑑が並べられている。『化石と岩石・鉱物』に『大むかしの生物』が斜めに立てかけてあり、隙間をつくっている。脇には緑のルーペと、トラをイメージしたバスのミニカーが置かれている。ルーペを「ガリバートンネル」に夜の闇への冒険が始まる。得体の知れない動物たちの無数の目が闖入者の姿を見張っている。棚には黄色とオレンジ色の附箋が貼られ、いつでも冒険の旅へと戻ることができることを示唆している。頭を柔らかく働かせさえすれば。
ほとんどの作品に恐竜が描かれている(《パラレルなパノラマ1》でも恐竜のフィギュアが描き込まれている)。中でもアクリル絵画(33.5×24.5cm)《黒いフラスコ》(2019年)は、フラスコの中で、抱き合う恐竜の力で電気が発生しているかのような作品で、作者の並々ならぬ「恐竜愛」が伝わってくる。恐竜の立体作品もある。粘土製のティラノサウルス《ティラノ》とアパトサウルス《アパト》とは復元を表わすかのような「金繕い」をデザイン。足先に据えられている木製の球体の意味を考えあぐね、狛犬に添えられる玉に思い至った。阿形に代えて肉食恐竜のティラノサウルスを、吽形の代わりに草食恐竜のアパトサウルスを置いたのではなかろうか。
会場の一角には、絵に描かれている図鑑や恐竜のフィギュアなどが実際に並べられ、作者が作品制作に当たるのと同じ体験を楽しむことができる。