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芸術鑑賞の備忘録

映画『不実な女と官能詩人』

映画『不実な女と官能詩人』を鑑賞しての備忘録
2019年のフランス映画。
監督は、ルー・ジュネ(Lou Jeunet)。
脚本は、ラファエル・デプレシャン(Raphaëlle Desplechin)とルー・ジュネ(Lou Jeunet)。
原題は、"Curiosa"。

1895年のパリ。詩人ジョゼ=マリア・デ・エレディア(Scali Delpeyrat)の住まいに若い詩人たちが集まって来た。ホセ=マリアの3人の娘たち、エレーヌ(Mélodie Richard)、マリー(Noémie Merlant)、ルイーズ(Mathilde Warnier)が鏡に向かってお喋りをしながら身だしなみを整えている。隣の部屋にいるピエール・ルイス(Niels Schneider)が鏡の裏から彼女たちの様子を窺う。そこへジョゼ=マリアがやって来て、ピエールを広間へと呼び寄せる。色男のピエールを恋するマリーは、母(Amira Casar)からお茶の用意をするよう言いつけられるも、隙を見てピエールと二人きりになろうとして、母に見咎められる。ピエールの友人アンリ・ド・レニエ(Benjamin Lavernhe)はエレーヌと結婚すると思われていたが、実はマリーに好意を抱いていた。ピエールとマリーとの距離が縮まるのを察知したアンリは、ジョゼ=マリアに金銭的援助を申し出ることでマリーとの縁談をまとめてしまう。2年後、アルジェリアに渡っていたピエールは野性的な魅力を湛えた現地の女性ゾーラ(Camélia Jordana)を伴ってパリに帰って来る。マリーはアンリには秘密にしてピエールのもとを訪れる。

 

ピエール・ルイスは詩作では成功せず、女性と関係を持って写真などに記録を残すことに没頭している(詳細な記録を残している秘密を親友のジャン・ド・ティナン(Emilien Diard-Detoeuf)に打ち明けるが、不審がられ、意気消沈するシーンがある)。冒頭の鏡越しに3姉妹を眺めるシーンから、一人暗い箱(カメラ)を通してガラス(レンズ)越しに女性を眺め、記録していくという、カメラの男としてのピエールが示される。ピエールは常に眺める側に立つことで女性を支配している。だがマリーは、ピエールのカメラを手にしてピエールを被写体にしようとする。マリーは双方向的な視線を交わし、対等な関係を築こうとして、ピエールを動揺させるのだ。それはピエールをコルセットで締め上げるシーンにも表わされるし、さらにはGérard d'Houvilleの名(男性名)で小説"L'Inconstante"を上梓することでピエールのみならず男性(社会)に対しても対等に渡り合うのだ。だがそれゆえにマリーはピエールにとって掛け替えのない女性として立ち現れる。
裕福なアンリ・ド・レニエはマリーとの結婚を実現する。だが、性的不能によりマリーとの夫婦としての営みを持てない。アンリがマリーを妻にしているのは、自らの力を誇示するためだろう。男性が黒い服で身を固める一方女性を華やかに着飾らせることで財力や地位を誇示した19世紀末の社会を反映している。だがアンリはマリーを支配できないことが、ピエールと異なり眼差すことができない(アンリはピエールに対して壁越しにマリーとピエールとの情事を盗み聞きさせるよう求める)ことによって明らかに示される。