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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 牛島光太郎個展『モノの居場所に言葉をおいたら、知らない場所までとんでいく』

展覧会『牛島光太郎個展「モノの居場所に言葉をおいたら、知らない場所までとんでいく」』を鑑賞しての備忘録
3331 Galleryにて、2019年10月19日~11月10日。

牛島光太郎の作品展。

《意図的な偶然》は、モノと、それにまつわるエピソードを刺繍した布とを組み合わせたシリーズ。《意図的な偶然 33》(2012年)は、鳥のオブジェにまつわるエピソード。知り合いの女性から紙製の鳥を手渡され、その際彼女は腕を広げて鳥の羽ばたきを真似てみせた。次に出遭った際、彼女は腕を怪我して三角巾で吊っていた。前にもらった鳥を鞄から取りだして見せると、やはり彼女は羽ばたく動作をして見せた。その際、紙で出来た鳥は三角巾の中に入っていった。《意図的な偶然 13》(2009年)は扇風機にまつわるエピソード。小学生の頃、扇風機の前で声を発して音が変わるのを利用して宇宙人になる遊びをしていた。それから10年以上経って、テレビでUFOに関する話題が取り上げられる中で、コメンテーターが宇宙人なんていないと締めくくった。長年愛用した扇風機を諦め、買い換えに電気店に向かうと、扇風機ではなくクーラーを勧められた。《意図的な偶然 16》(2009年)はカーテンにまつわるエピソード。引っ越しの準備をほぼ終えた友人の部屋にカーテンが残っていた。友人は新居には必要ないと外して捨てようとしていた。その時、カーテンのなくなった窓から信号機の緑や赤の光が射し込んでいた。
《意図的な偶然》シリーズは、日常生活の岸辺に打ち上げられた泡のようにささやかな偶然を、見逃さずにつかまえて標本を拵えるような作品群。
拾い集めたモノに白いプラスティック樹脂を加えた《外側の形》シリーズ(2017年~)が、例えば漂流していた大実椰子の実に銀の台座を加えた《大実椰子の水差し》(16世紀。ヴィーン美術史美術館蔵)に通じることから、その感を強める。ぬいぐるみやコップなど様々なモノを「マッシュアップ」するかのように、刺繍したオーガンジーを被せる《匿名の家》シリーズなども含め、美術品のsouvenir(思い出、記憶、記念の品)としての性格が全ての作品の基調となっている。