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芸術鑑賞の備忘録

映画『第三夫人と髪飾り』

映画『第三夫人と髪飾り』を鑑賞しての備忘録
2018年のベトナム映画。
監督・脚本は、アッシュ・メイフェア(Ash Mayfair)。
原題は、"Người vợ ba"。英題は、"The Third Wife"。

19世紀の北ベトナム石灰岩の断崖を縫う川を進む赤い花で飾られた舟に、少女メイ(Nguyen Phuong Tra My)の姿がある。メイは養蚕・製糸を手がける富豪ハン(Long Le Vu)に第三夫人として嫁ぐのだ。先代の長老(Trung Anh)、ハン、第一夫人のハ(Nu Yên-Khê Tran)とその息子ソン(Nguyen Thanh Tam)、第二夫人のスアン(Mai Thu Huong Maya)とその娘リエン(Lam Thanh My)とニャン(Mai Cát Vi)、一家に使えるラオ(Nhu Quynh Nguyen)らが出迎え、婚礼の祝宴が開かれる。メイはラオが用意した床入りの儀式の道具を手に寝室へ向かう。翌朝、布についた血を確認してもらい、無事に花嫁として迎え入れられる。メイは、ハやスアンに家のしきたりや妻としての嗜みを教わり、ラオの支えを受けながら、少しずつ生活に馴染んでいく。それでもまだ14歳のメイは、初潮を迎える年齢にさしかかっているリエンや大きくなったら男になると仏様にお願いする幼いニャンなどと過ごす時間も多い。ラオから男の子を産まなければ「奥様」とは言えないと知らされ、メイは男の子を授かることを切望する。そして、程なくしてメイの妊娠が明らかになる。

 

山間の豊かな自然の風景や養蚕農家の光景が美しく描かれる中で、女性の置かれた境遇を描き出す。彼女たちは希望を胸に抱きながらも、自らの運命を甘受せざるを得ない。だがその姿が強く彼女たちの立場への共感を静かに強く呼び覚ますことになる。夫人たちの関係は、夫との関係や、男児を得るかどうかといった状況によって、微妙な関係に立つが、いがみ合うような関係性を表わさなかったことも、優美な作品に仕上がっている所以だろう。

黄色い花のエピソードは、伏線として一度回収されるのだが、作品を強く印象づけるものとして再び現れることになる。見事。

最後の最後の場面も、劇中の何気ない科白を反映したものになっている。女性たちの思いを無言で伝え、心を揺さぶられる。