可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 蝸牛あや個展『積み重なった物語』

展覧会『蝸牛あや新作個展「積み重なった物語」』を鑑賞しての備忘録
メグミオギタギャラリーにて、2019年11月26日~12月14日。

蝸牛あやの刺繍作品を紹介。

絹で織られた布に絹糸の刺繍で表されるのは、貝殻や石であったり、植物であったり、浜辺の景色や、波や雨滴のつくる波紋であったりする。いずれも刺繍でありながら極めて「絵画的」である。「絵画的」というのは、水彩やクレパス、あるいは色鉛筆で描き出されたような印象を受けるということだ。刺繍は、針を通す穴と穴とを最短距離の糸が結ぶことで定着するため、表される形は直線になる。そのような縛りがありながら、細かな線を繰り返し縫い付けることで渦や円といったカーブを敢えて表し、絵画を立ち上げている。それと同時に、絹糸の独自の光沢により、光の当たり方、見る角度によって画面の表情が移ろうという刺繍ならではの魅力も有している。
絹糸は光沢を備えるという点のみならず、光のアナロジーであるのかもしれない。絹糸の作る直線も光の運動を擬えるものだからだ。刺繍は、布の表と裏という境界を光は行きつ戻りつ進みながら、2つの相反する世界を結び合わせることで、イメージを生み出していく。
展覧会名は、アンソニー・ドーア(Anthony Doerr)の小説「すべての見えない光(All the Light We Cannot See)」から着想されたという。同作は第二次世界単線中の仏独が舞台で、光を失ったフランス人の少女が主人公の一人。彼女とsnails(=蝸牛)との邂逅も印象的な作品だ。