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芸術鑑賞の備忘録

映画『家族を想うとき』

映画『家族を想うとき』を鑑賞しての備忘録
2019年のイギリス・フランス・ベルギー合作映画。
監督は、ケン・ローチ(Ken Loach)。
脚本は、ポール・ラバーティ(Paul Laverty)。
原題は、"Sorry We Missed You"。

マンチェスター出身のリッキー・ターナー(Kris Hitchen)は、妻のアビー(Debbie Honeywood)、息子のセブ(Rhys Stone)、娘のライザ(Katie Proctor)とともにニューカッスルの借家でつましく暮らしている。かつてローンを組んで持ち家を手に入れたことがあったが、2008年の金融危機のあおりで手放さざるを得なかった。以来、自らは建設現場の仕事などを転々としながらローンを返済し、アビーはパートタイムの介護福祉士として家計を支えていた。リッキーは再びマイホームを手に入れようと一念発起して、宅配業者PDFの面接に向かう。全国トップの売り上げを誇る事業所を取り仕切るマロニー(Ross Brewster)から、雇用契約を結んで給料を支払うのではなく、独立事業主としてフランチャイズ契約を結ぶのだと説明を受ける。会社の車を1日あたり60ポンドで借りるより新車を購入して400ポンドを月賦で支払った方が有利だが、頭金に1000ポンドが必要だった。アビーが訪問先を回るために乗っていた車を手放させることで用立てるしかなかった。宅配ドライバーごとにルートが設定され、荷物とドライバーとが端末によって管理され、その厳密さは、運転席を2分離れただけでアラームが鳴るほどだ。渋滞や受取人の不在など状況に関わらず指定時間内に荷物を宅配しなければならず、どんな事情であろうが休みをとるためには代わりのドライバーを探してこなければならなかった。アビーの訪問介護もバス移動の分、移動の負担が増していた。要介護者に自らの母親のようにサーヴィスを提供しようとするアビーは欠勤のスタッフの代行にも駆け回る。リッキーもアビーも子供たちと顔を合わす時間が失われ、家に帰れば泥のように眠ってしまうのだった。親の目が届かなくなったセブは夜中に仲間とつるんでグラフィティに熱中し、次第に学校を休みがちになっていく。ライザはバラバラになっていく家族について気に病んでいた。

 

宅配業者の残す"Sorry We Missed You"というメッセージが、宅配サーヴィスのシステムに組み込まれて生真面目であるが故に非人間的な存在に堕してしまう父リッキーに対する家族からの悲痛なメッセージへと転化する様を描く。アビーがうなされる夢の話に象徴されるとおり、家族のためにもがくことが逆効果にしかならない悲劇。
常に温和なアビーが病院でマロニーに対して思わず悪態をついてしまうシーンに、この作品からの極めてストレートなメッセージが乗せられている。
主要キャストも脇役も皆リアリティのある素晴らしい演技。